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コラム 2016.02.20

#56 冠 那菜奈(アートメディエーター/余白工事の会)


■「胸をはって話ができる、自分の"ふるさと"ってどこなんだろう...?」
初めて私がAAFと出会った時に思ったこと。今でもよく覚えている。大学に入って少し経ってからのこと、2007年だからもう9年近く前になるだろうか。知り合いに誘われてお手伝いをしに足を踏み入れたアサヒ・アートスクエアでは偶然にもAAFの報告会が行われていた。各地域で活発に行われているアートプロジェクトや市民活動がどんどんひっきりなしに紹介・報告されていく様は、驚き以上の何ものでもなかった。東京の郊外で過ごしてきた自分には、胸をはってそこの土地と関わっているという実感がないまま大人になってしまっていたので、報告会で参加団体の方々それぞれが土地に愛着を持ち、熱っぽく語る姿を見て非常にうらやましくなった気持ちを覚えている。
大学では日本各地で行われていたアートプロジェクトを調べたり、出向いたり、実践していたこともあって、地域のことになるべく目を向けようと努力していた。それは自分の中にぽっかり空いた地域への愛着を、どうにか獲得したいともがいていたからかもしれない。それでも、自分の心の"ふるさと"といえる場所がいったいどこなのか、色んな地域に行けば行くほどわからなくなり、それこそコミュニティ難民*1のように様々な地域に関わった。
それから3年後、ひょんなことから当時自分が心に大きな衝撃を受けたAAFに応募してみようという話が持ち上がったのである。

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AAF報告会後、ぐるっこのいえ湯島に集まるAAF参加メンバー

■閉じていた私が始めた、開かれた"家"
きっかけは、2010年11月から東京・秋葉原に始めたシェハウス「ぐるっこのいえ」。シェアハウスといっても3LDKマンションで、ハードは何もいじっていない、いわゆる普通のお家。そこに住人である女の子3人(ぐるっ娘)と、その場に訪れる人それぞれ(ぐるっ子)が、台風の目となり、色んなものを巻き込み、吸収していく住居兼イベント・交流スペースとして家を開き始めた。
とはいえ、自分も含めてシェアハウス経験者は誰もおらず、メンバーそれぞれもほとんどお互いのことを知らないまま一緒に住むことになる。かろうじて私だけは2人のことを知っていたが、私以外の2人は家を内見するタイミングで「初めまして」だったので、不動産屋の担当者には目をパチパチされながら「ほ、本当にこれから一緒に住むんですか!? マンガみたいなことってあるんですね!」と驚かれた。
シェアハウスをするまでの23年間ずっと実家暮らしだった私にとっては、他人と一緒に生活すること、家に帰ったら知らない人がいるという環境、生活と活動がゆるやかに共存する場... 何もかもが新鮮で、驚きと発見の連続だった。それはシェアハウスを始めて5年以上経った今も変わらない。

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ぐるっこのいえ湯島でのパーティの様子

■どんどん解体されていった自分の中の"家=ふるさと"
もともと誰かの家に泊まりに行くのはとても好きだった。自分の"家族"以外の"家族"や生活をみる、肌で感じることで、自分の中の凝り固まった"家族像"がゆるやかに溶け出して、再構築をし始める。「自分が泊めてもらったのなら、自分の家にも泊まりに来て欲しい!」というふつふつと湧き上がっていた欲望が、自分の"家"を始めることでぶわーっと溢れだしていった。
連日パーティをしたり、他地域から東京に来る友人や友人の友人まで、ことあるごとに我が家へ招待したりしているうちに、ぐるっこのいえを始めて2ヶ月もしないうちに来場者は100人をゆうに超えていた。"家"という距離感で人と人が出会うと、「初めまして」なのに自然と垣根なく色んな話をすることができる、シェアハウスを始めて得たとても重要な気付きだった。
相手が心を許してくれるだけではなく、自分も相手を受け入れやすい体制になっている。さらに日本各地から我が家に持ち込まれる話は、ニュースで聞くのとも違うリアリティで、人を介してみずみずしく暖かい情報ばかりだった。外から見たらなんの変哲もないマンションだが、一步中に入ると色んな人や地域とつながれる場になっていた。それを面白がってくれた人達と、ぐるっこのいえを拠点にアートプロジェクトを始めて、AAFに応募してみたらいいんじゃないかという話になった時、「あぁここが自分の今まで探してきた"ふるさと"になっている・いくのか」とドキドキわくわくしていた。
少々きっかけの話が長くなってしまったが、そこから「秋葉原ネットワーク*2」というプロジェクトが生まれ、「余白ネットワーク*3」というプロジェクトに形を変え、今もゆるやかに続いている。

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秋葉原ネットワークメンバー

■ネットワークとしての、拡張する"ふるさと"
私たちがAAFに参加し始めたころから、AAFの中でも「ネットワーク」という言葉がたくさん使われるようになっていたようだ。目には見えないが、確かにそこにある、何か。単なる情報だけではない、人を介してこその何か。特定の地域に対しては抱けなかった愛着心だったが、ぐるっこのいえや余白ネットワークを介して、ある地域ではなく、人が集いネットワークされていく場に、今はとても愛着を持っている。
自分の"ふるさと"をネットワークとして拡張して考えることで、特定の場所にとどまらず、自分の"ふるさと"がどんどん広がっていっている気がする。これこそまさにAAFネットワークの一つの形なんじゃないか、と個人的には思っている。これからまだまだ広がっていくだろう自分の"ふるさと"と出会うのが楽しみで仕方ない。

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ぐるっこのいえ目白でのパーティの様子

註釈
*1:コミュニティ難民 http://yrecord.exblog.jp/16007368/
*2:秋葉原ネットワーク http://www.asahi-artfes.net/program/2011/post-5.html


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冠 那菜奈 KANMURI Nanana
1987年東京都生まれ。2011年武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。アートマネジメント専攻。大学在学中から、様々なメディアを駆使し、ヒト・モノ・コトをより良い形でつないでいくアートメディエーターになることを目指し、卒業後フリーランスとして、距離や時間、分野を越えてリアルでクリエイティブな繋がりを創っていくため、今も奮闘中。仕事・活動では、それぞれのニーズに合わせて企画やコーディネート、マネージメント、広報・PR等を担当。