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レポート 2015.09.23

2015交流支援プログラム レポート08 いろいろやってみる部←余白工事の会


2015年、8番目のレポートを公開いたします。

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<開催概要データ>
[企画名]山奥の余白合宿
[実施日] 2015年9月4日(金)~6日(日)
[招聘者]いろいろやってみる部【京都府福知山市】
[訪問者]冠那菜奈・小林橘花・内田聖良・内田壮哉・多田衣里(余白工事の会)【東京都内各所および京都府京丹波町】

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<レポート>
2015年9月、私イシワタマリが主宰する「いろいろやってみる部(以下、いろいろ部)」の活動拠点、京都府福知山市の山奥に「余白工事の会(以下、余白)」を招いての合宿を行いました。

合宿全体を通してとくに印象深かったのは、未婚者/既婚者、子どもを持つ者/持たない者、あるいは男性/女性といった壁を越えて共に過ごす環境のめずらしさ、大切さ。20代後半~30代前半にさしかかったとたん、結婚や出産を巡る立場によって、それまで仲がよかったはずの人たちと無数に分断されてしまったように感じます。そして気づけば「結婚した、子どもを産んだ、子育てに奮闘している」似たような立場の人ばかりとしか出会えなくなり、「保護者」は「保護者」の顔をして、なんとか「正しい保護者」であろうとする。その「多様じゃなさ」こそが私にとっての結婚生活・子育て生活の苦しさの根源であるように感じます。

今回、私は1歳9ヶ月になる娘Cを連れて行動、余白メンバーのうちの多田衣里さんも近隣の京都府京丹波町から1歳半の息子Kくんと共に来訪。ほかの4人はそれぞれ東京から新幹線やバスを乗り継いで単身での来訪でした。「いろいろ部/余白」や「田舎/都会」、さらには「大人/子ども」という区分も越えて、「立場も性格も多様な男女二世代がいっしょに過ごす」という、自由で興味深い合宿環境でした。
多様な男女二世代の空間は、同世代だけの空間とも違い、母子何組かが集まったような空間とも違い、また大勢の大人が1人の子どもの一挙手一投足に注目する空間とも違いました。皆が気負わない目線で子どもを見守り、猫なで声でちやほやするでも無視するでもなく、母親だけに負担が集中するでもなく、適度に交替しながらそれぞれの視点でその場を楽しむ環境。1歳児ふたり(黙々と自分の興味につきすすむKくんと、常に目立とうとするC)の対比もおもしろく、母親らしい恐縮の風情も放棄してそれをおもしろがってみんなで笑ってしまえることさえもめずらしかったような気がします。
自己主張の激しい娘Cはメンバー全員にガンつける(睨む)、顔面パンチをくらわすなどのダメージを与えていましたが、ガンつけた人にはガンつけ返されたり、「見て!見て!」と言ってもさほど注目してもらえなかったり、悪い事をしたらきちんと諭されたりと、人間として対等に扱ってもらった印象です。ふだん周囲に「かわいいね~すごいね~かしこいね~」と持ち上げられて暮らしている娘Cですが、今回新しいタイプの大人たちから新しい世界を学んだように思います。
子どもたちと過ごした時間について、余白の小林橘花さんは「お互いに終着点を考えてない遊び未満の〝あそび〟がおもしろかった」、内田壮哉さんは「遊んでいる当人たちが〝自分は一体何をやってるんだろう?〟というのを、経験を蓄積して理解しようとしてるという気がした」などと話していました。本来みずみずしい喜びに溢れているはずの子どもとの〝あそび〟の時間が、「保護者」の責任に閉じられることで、結果的にその保護者たち自身もストレスで疲弊し、〝あそび〟を楽しむ余裕を失ってしまうことが多いのは残念なことだと感じます。

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三岳山登山口付近、金光寺境内からの絶景をバックに。

日中の視察ツアーでは、ひとりの地域住民としての私が結婚生活上・子育て生活上どんなことに困難を感じているのかという解説(愚痴)と共に主観的に案内しました。今回私は、(1)福知山市街地、(2)福知山市周縁の山間地域、そして(3)隣町・綾部市の雰囲気を比較しながら案内したいと考えていました。
(1)福知山市は、大規模な工業団地の存在や大型チェーン店舗群の林立などから、周辺市町村の中では比較的就職口も多くて利便性も高いという自負があります。こうした要素は、都市からの移住者(転勤や結婚などで地域のことを全く知らずに来る者が中心)には、「都会でも田舎でもない」という戸惑いを与えます。しかしそうした戸惑いをただ声高に叫び続けることは、まちを長年愛して生活している人たちを無為に傷つけることにもなります。私自身は福知山市中心部のアパートで暮らしていた初めの1年間は大阪・京都・神戸(いずれも電車やバスで実質2時間)などの文化圏のほうばかりを向いて途方に暮れていたのですが、自動車免許取得や妊娠を機に発想を変え、同じ福知山市でも駅から車で30分ほど離れた(2)山間地域(=過疎化した山奥)へ夫と共に引越しました。市街地の人から「なぜそんな不便なところに住むの?」と言われるような過疎エリアです。
そこで比較したいのが(3)隣町・綾部市。グンゼ(キリスト教理念によって創業された企業)、大本教、合気道などが発祥したという独特のスピリチュアルな歴史風土があいまってか、若い子育て世代から中高年に至るまで、精神性豊かな暮らしを求めて都市部からIターン・Uターン移住する者が多いのです。ツアーでは、そんな綾部カルチャーの発信地のひとつともいうべき「タケマルシェ」(竹松うどん店主催)を訪れました。オーガニックな食事、自然との共生など、オルタナティブな生活スタイルを志向する子育て世代らが中心となってマーケットやライブを行っており、京都市内からも田舎生活に関心を持つ大学生らが短期滞在でイベントを手伝うなど、価値観を共有するコミュニティが確立されている印象です。
私自身は(1)福知山市街地から(2)周縁部へ引っ越すことで田舎ならではの温かい人間関係に恵まれたこと、(3)綾部市で絵画教室を開くなどの文化的活動や交流に恵まれたことで、結婚当初の所在ない苦しみは大きく改善されました。にもかかわらず、私はきっと、(1)~(3)のいずれのエリアでも今はまだ見られない、もっと雑多で異質なつかみどころのないもの、特定の価値観にもアイデンティティにも縛られない多様さがおりなす「何か」を見てみたいのだろうと考えています。その「何か」を具現化するためにも、まずは今ここで出会う人々のアイデンティティ(地縁や血縁については私にとって感覚的にわかりにくいものが多い)を誠実に見つめたいと思います。

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「やまやま休憩室」にて、近所に住むHちゃん親子と。休憩室は毎週金曜日14時~19時、三岳会館1階和室にて。

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「日本の鬼の交流博物館」前の巨大鬼瓦作品。全国の鬼師(※鬼瓦職人)たちに依頼したパーツを合体させた力作。

ツアーから帰ってからの夜の座談会では、それぞれの育った家庭環境やそこからくる結婚観・家族観などについて、具体的なエピソードを共有することができました。印象的だったのは、ほとんどの人の両親が程度の差こそあれ「不仲」であったこと、その中で唯一ラブラブな両親を持つ橘花さんが、「物心ついたころから自分の両親が特殊であることに気づき、両親の仲のよさを周囲に話すときにものすごく神経を使ってきた」と話していたことです。夫婦が愛し合っているのは素晴らしいことなのに、なぜそれを語る娘が苦悩に満ちた表情で冷や汗をかかなければならないのか・・・そんなところに、私たちが暮らす社会の生きづらさの一端を垣間見たような気持ちにもなりました。

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夜の座談会風景その1

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夜の座談会風景その2、両親の仲の良さについて語るときの小林橘花さんの苦悩に満ちた表情と、イシワタ宅の破れた障子。

今回の合宿に先駆けて、これまでほとんどしゃべったこともなかった私たちは、数ヶ月前からSNS上のスレッドで頻繁にやりとりをするようになりました。結婚観やジェンダー観、その多様な可能性について活発な議論をかわしたり、ウェブ上の興味深いリンクをシェアし合ったり、日常生活上の悩みを共有したりという日常的なやりとりは現在も続いています。また、白熱する議論から派生して、お互いが発信するメディア(いろいろ部発行の地域新聞「このあたりのしんぶん」と余白のブログ「よはくクラブ」)に寄稿し合う企画も実現しつつあります。

いろいろ部は、メンバーの生活上の苦境をバネに「山山アートセンター」という場所をつくる構想に取り組み始めています。地域の人と関わりつつ地域性に固執せず、全世界(の山の見える田舎)の普遍性とつなげたい気持ちで「山山」と名づけました。あえて「アートセンター」と付けてはいますが、人生についての普遍的な取り組みのためのプロジェクトでありたいと思っています。
いろいろ部メンバーの吉田美奈子さん(雲の原っぱ社代表)は、余白の人々と接する中で、同質ではない人たちの集まり(=美奈子さんによる余白の第一印象)がゆるやかに継続されていくあり方を真摯に観察しようとしていました。美奈子さんは約1ヶ月前に東京のぐるっこのいえ目白(※余白の活動拠点のひとつ)で行った事前打ち合わせにも参加してくれたのですが、そのときと今回の印象があまりにも違うことが嬉しい驚きだったそうです。東京で会ったときは「アートの人たちって自分とはすごく違うんだ」と戸惑ったそうですが、合宿中、一緒にごはんを食べた後の片付けや施設を使用した後の去り方といったふるまいから、自分が地域生活のうえで大事にしていることを自然に共有できる相手だとわかって嬉しかったと話してくれました。また、今回の合宿中、私がいつもより嬉しそうにくつろいでいることが印象的だったそうです。福知山に生まれ育った立場ながら移住者の私の悩みに日常的に耳を傾けてくれている彼女にとって、今後この地域が、そして自分自身がどう変化していけばいいのか・・・考えを巡らせてくれていたそうです。
移住4年目の私ですが、愚痴の多い日々ながらも温かい仲間に恵まれた幸運を身につまされる思いでした。ちなみに、東京でせまいアパート暮らしをする余白の内田聖良さんは、山奥で美奈子さんが現在実質一人暮らしをしている大きな一軒家のあまりの広さと安さに、衝撃を隠しきれないようすでした(※この物件は今後、農家民宿および「山山アートセンター」のレジデンス施設として宿泊者を受け入れていく予定)。

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吉田美奈子さん(右から2番目)が暮らす、山奥の広くて安い一軒家。田舎暮らし雑誌に出てきそうな雰囲気の内田聖良さん(いちばん左)は都内で、美奈子家の5分の1もないかもしれない部屋の家賃支払いに困窮しながら暮らしているので、「経済とか仕事とか生活することってなんだったっけ?」ともやもやした気持ちになったらしい。でも、のんびりしていそうな雰囲気の美奈子さんは実はとても忙しいらしい。

余白の聖良さん・橘花さんからは、「ひとくちに〝苦境〟と言っても、イシワタさんにとってやる気の出る苦境と出ない苦境があるんだね」と指摘されました。つらくて都合の悪い環境を否定・排除するのでなく、違和感のモヤモヤをとっかかりに自分のやる気を上手に引き出していく態度の大切さを、今回の合宿で学んだ気がします。価値観が合わない(と思われる)、話が通じない(と思われる)。でも尊敬している、学びたい。苦境の中で出会う、そんなたくさんの相手。そういう相手とのコミュニケーションを模索したいのです。
専門用語は便利で、それが通じるひと同士のコミュニケーションは快適です。しかし通じないひとにとっては何の意味も価値もないただの記号であり、その記号自体が「こっちに来ないで」という壁を作ったりもします。壁を作ることは身を守ることにもつながるけれど、それをし続ければ孤独になります。人生最大の苦境、それは孤独です。日常の中でもがくひとりの生活者だからこそ痛切に感じる、「アート」や「表現」の必要性。今回の合宿を経て、自分は今とても普遍的なことに向き合っていて、孤独ではないのだ、と思うことができ、励まされました。全世界(の田舎)に散らばって孤立しているひとたちとつながり、励まし合いながら前に進むことができますように・・・。

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<タイムテーブル>
◎2015年9月4日(金) 
10:00-14:00
◆イシワタマリの苦境ツアーA (山奥お気に入りスポット視察)
日本の鬼の交流博物館、鬼そば、金光寺など
14:00-19:00
山山アートセンター企画「やまやま休憩室」にて近隣住民や「いろいろやってみる部」メンバーと交流
【冠、小林、多田、イシワタ宅に宿泊。夜は座談会。】
◎2015年9月5日(土) 
07:00-10:00
◆内田聖良&壮哉の早朝福知山散策ツアー(待ち時間、前情報に翻弄されながら徒歩圏内を観察)
マクドナルド、すき家、福知山城
10:00-13:00
◆イシワタマリの苦境ツアーB (福知山市と綾部市の比較考察)
国道沿い大型チェーン店、福知山城周辺、タケマルシェ(綾部)など
15:00-18:00
◆多田衣里の京丹波おすすめ観光ツアー
鍾乳洞、旧質美小学校、丹波ワインなど
19:00-21:00
◆イシワタマリと多田衣里の苦境ツアー(このあたりの外国人と知り合いたい。いるのかなあ? どこにいるのかなあ? あ! こんなにたくさんいる!!・・・あ、みんな大阪から来たんだ・・・やっぱり・・・このあたりにはいないのかなあ・・・。)
「国際交流ふれあい農園収穫祭」見学
【小林、内田(聖)、内田(壮)、多田、イシワタ宅に宿泊。夜は座談会。】
◎2015年9月6日(日) 
10:00-14:00
◆イシワタマリの苦境ツアーA' ~山奥お気に入りスポット視察~
雲の原っぱ社、水車広場、金光寺、日本の鬼の交流博物館など
15:00-19:00
福知山スイーツ、福知山温泉など
【内田(聖)、イシワタ宅に宿泊。夜はぐっすり就寝。】


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<執筆者プロフィール>
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イシワタマリ ISHIWATA Mari
美術家。1983年横浜生まれ、京都府福知山在住。 慶應義塾大学文学部(社会学専攻)で「スピリチュアリティにまつわる社会学」を、セツモードセミナー夜間部美術科で絵画を学んだのち、2008年BilbaoArte基金の助成金を得てスペイン北部バスクに1年間レジデンス滞在。2009年ドイツ・ベルリンのWIRギャラリーにて「2年に1度どこかで何かやる、イシワタビエンナーレ」を始める。アートスペース・イシワタ邸の運営(2011年・横浜)、冊子「ちとせ」の発行(2013年・大阪)に続き、「いろいろやってみる部」と「山山アートセンター」を立ち上げたところ(2015年・福知山)。趣味はもがくことと異文化交流。