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レポート 2015.09.02

2015交流支援プログラム(海外編) レポート01 パルルを支援する会→マレーシア

AAFネットワーク団体のスタッフによる「地域間交流支援プログラム」。
2年前より、国内ばかりでなく、将来的なネットワーク形成の可能性を求め、海外のさまざまな活動団体との交流プログラムが試験的にはじまっています。AAFネットワーク団体スタッフが海外に向かうばかりでなく、日本に招聘する企画もあり、今年は6つのプログラムが実施される予定です。
2015年、最初の海外編レポートを紹介します。

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<開催概要データ>
[企画名]世界をアートネットワークでつなぐ マレーシア編
[実施日] 2015年8月2日(日)ー8月14日(金)
[訪問先]Gerakan Seni 2015(クアラ・ルンプール)、Arts-ED(ペナン)、Lostgens'(クアラ・ルンプール)以上いずれもマレーシア
[訪問者]新見永治(パルルを支援する会【名古屋市中区】)

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<レポート>

8月2日から8月14日までクアラルンプールを中心としてマレーシアに行ってきました。昨年12月にAAFネットワークの事業で滞在して今度が二度目の訪問です。
最大の目的はGerakan Seni 2015というアートプロジェクトに参加することでした。これはNational Visual Arts Gallery(国立美術館)のネットワーキングと教育を担当する部門が主催したアウトリーチ企画で、クアラルンプールの中心から少し北へ行ったところにある中等教育の学校が今回の会場です。

昨年の訪問で知り合った国立美術館の学芸員クーン・タンさんと連絡を取り合っている中で、今回の企画に日本との連携ができないか、との話が持ち上がり、劇団「悪魔のしるし」の搬入プロジェクトを実施することになりました。僕にはキュレーターという肩書きが付いたのですが、実際にはクアラルンプールにこの春からリサーチャーとして滞在中の森真理子さんが現地でキュレーターとして参加してくださり、まさに八面六臂の活躍で、僕が現地に着いた時にはほとんどすべての段取りが整っているという状態でした。

さて一日遅れて到着した「悪魔のしるし」の危口統之さんと石川卓磨さんと共に落ち着く暇もなく、さっそく準備に取り掛かりました。
この搬入プロジェクトは制作した物体を建造物の中に運び込むというとてもシンプルなものです。主催者の危口さんは実施に際しては上演という呼び方をしています。
駆け足での準備作業が連日続きました。わずか五日間しかありません。まずは学校の建物を一通り見て回り、搬入する位置を決め寸法の測定。これを元に建物の模型を作ります。これと並行して搬入する物体を製作する素材の竹を細く棒状に切っていく作業も開始しました。搬入物体の形状を模型を使って幾通りも試しつつ、なんとか四日目には物体の制作に取り掛かりました。ここまでくれば一安心です。

この間、企画者のクーンさんや美術館のスタッフはもちろんのこと、学校側の惜しみない協力には大変驚きました。最初はいわば目的のない作業である搬入プロジェクトについて明らかにピンときてない感じでしたが、準備が進むにつれて教師も生徒も、大勢しかも長時間手伝ってくれるようになりました。

ところで今回のアートプロジェクトには全部で8組のアーティストが参加していて、その内「悪魔のしるし」を含めた5組が校内でワークショップなどを重ねながら生徒と共に作品を作りました。
その中の一組であるKONTAK! はクアラルンプールを拠点とするグループで、調理の授業を受けている生徒と共に釜戸を作りピザを焼くというプロジェクトを実施しました。ところでこの学校はクアラルンプールの中心部が拡大するのに伴い古い集落が消え、新しい街に作り替えられようとしている地域にあります。古い住居と真新しい高層ビルが隣り合っていたりして、そのコントラストがとても印象的です。この点に注目したのがこのKONTAK! で、ピザ焼きの釜戸は土で作られているのですが、その土は学校近くの取り壊された古い集落の建物跡から集めてきました。
6名で参加していたPangrok Sulapは、木版画を手がけるチームで、常に共同作業です。手の空いている者は歌ったりギターを弾いたり踊ったりと、彼らの拠点であるマレー半島から離れたボルネオ島のサバ州での暮らしぶりがそのまま持ち込まれたような制作風景でした。
クアラルンプール郊外で活動するPusat Sekitar Seniは、校内の花壇で野菜やハーブを育てたり学内でゴミのリサイクルを行いそこから肥料を作るなど自然環境に目を向けるプロジェクトを行っていました。

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Pangrok Sulapによる版画の一枚が刷り上がる。作業場の美術室にて。(2015/8/7)

さて制作を開始して五日目の8月8日は、Gerakan Seni 2015の一般公開初日です。市の教育部門や日本の国際交流基金などからのゲストを招いてのオープニングセレモニーが進む中、ひたすら搬入プロジェクトの準備は進みます。夕方には全長6mほどのウネウネとした形の搬入物体がほぼ完成しました。
翌9日は、ついに搬入当日。朝から色とりどりの古布を物体に巻きつけて最後の仕上げです。お昼前にいよいよ搬入開始。生徒に先生それに参加アーティストたちが集まっています。危口さんがマレー語で挨拶と説明をしてから、なんと準備体操を始めました。これにはみんな大笑い。
まず一度中庭に搬入して、お昼の休憩を挟みました。午後からは予定コースをいきなり変更しての搬入となり実験と即興の場がいきなり出現しました。おかげで物体を運ぶみんなの団結力が一気に高まり、大きな盛り上がりのうちにゴールのグラウンドに到着したのでした。
あっという間の6日間でした。

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搬入プロジェクト、午後からの二度目の搬入風景。食堂から外のグラウンドを目指す。(2015/8/9)

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搬入プロジェクト無事成功。ゴール地点のグラウンドにて記念撮影。(2015/8/9)

(搬入プロジェクトの様子はスポーツに似て、とても逐一言葉でお伝えできません。ぜひ下記のリンクから画像をご覧ください。)

そして一日休養日を挟んでペナン島のジョージタウンへと向かいました。こちらで開催されていたDA+C Festivalというメディアアートの展覧会場で参加作家の梅田哲也さんと久々に会うことができました。
その後、今回の訪問のもう一つの目的であるマレーシアでのアート団体のネットワークの状況を知るためにArts-EDのオフィスへ向かい、スタッフのヨーク・ピンさんにお話しを伺いました。AAFでの知識を活かせるような場があれば、と少なからず意気込んで出かけたのですが、実際にはそう簡単に物事が進む状況ではありませんでした。
すでに昨年の11月にマレーシア周辺の国も巻き込んで50名ほどがネットワークについて話し合う場を開いたそうですが、各団体の考え方の違いがバラバラでまとまった方向性を打ち出すには至らなかったようです。そこで今年は再度人数を絞り込んで集まる計画をしているとのことでした。

ペナンからクアラルンプールに戻り、翌13日はいよいよ滞在最後の日。アートスペースLostgens'を訪ね主宰者のヨウさんと再会しました。昨年の訪問では交流の場を作ってくれたり、今年の3月にはAAFネットワーク会議に参加してもらったりと急速に関係が深まっています。日本滞在中はAAFに刺激を受けてかネットワークの必要性を力説していたヨウさんですが、やはりマレーシアの現状については口が重くなります。

マレーシアでのネットワークの可能性については、まだ十分に見通せる段階ではありません。出会った二人も模索中の状態でした。そもそも目指すネットワークがどんなものか、そのイメージがうまく共有されていないと感じました。もちろんAAFのようなスタイルのネットワークがマレーシアに適しているとも限りません。

昨年の訪問ではアート関係者に限られていましたが、今回の搬入プロジェクトの現場で色々な人と触れ合う中で、僕はまだマレーシアのことをあまりに知らないことを思い知らされました。その土地を十分に分かりもしないでネットワークの構築などと考えることはできません。
単純にまずはこの国をもっと知ろうと思いました。そのために僕だけでなくAAFのメンバーやアーティストたちが日本から出かけて現地で滞在できるスペースをマレーシアに一つ作れたらとの考えが頭をもたげてきています。同時に日本にも向こうからの訪問を受け入れる体制も整えないといけません。
お互いをもっとよく知るための小さいけれども確かな交流。それを続ける先にきっと見えてくるはずの何かに期待しています。

最後になりましたが、この交流事業を支えてくださったAAFネットワークおよびGerakan Seniに関わった皆様に心からお礼を申し上げます。

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■搬入プロジェクト(Carry-in Project)の画像まとめ 

■Gerakan Seni 2015全体の画像まとめ

■Gerakan Seni 2015会場位置(グーグルマップ)

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<タイムテーブル>
8月02日 夜、クアラルンプール到着
8月03日 Gerakan Seni 2015会場の学校(SMK Bandar Baru Sentul)にてアーティスト、キュレーター、学校関係者によるミーティング。
森真理子、危口統之、石川卓磨と合流。
8月04日 校内見学、搬入プロジェクト準備(位置決め、会場図面作成)
8月05日 搬入プロジェクト準備(会場図面完成、会場模型作成、搬入物体の材料となる竹を棒状に加工)
8月06日 搬入プロジェクト準備(会場模型完成、搬入物体の形状検討、竹の加工終了)
8月07日 搬入プロジェクト準備(竹を組み合わせて搬入物体製作開始、説明展示の準備)
8月08日 Gerakan Seni 2015一般公開初日、搬入プロジェクトは準備継続(搬入物体製作)
8月09日 搬入プロジェクト実施(昼食を挟んで二度実施)
8月10日 休養日 石川琢磨帰国へ
8月11日 Gerakan Seni 2015会場にて来客へ作品解説 
午後、ペナン島へ向かう ジョージタウンのArts-EDにてChen Yoke Pinに会う
8月12日 ジョージタウン探訪 アートプロジェクト「People' Court」の会場などを見る 
夕刻、クアラルンプールへ戻る 危口統之帰国へ
8月13日 Lostgens'訪問 Yeoh Lian Hengに会う
     Yeohの案内で、アーティストインレジデンスRimbun Dahan、ハンセン病施設跡を見学
帰国へ
8月14日 日本到着

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<執筆者プロフィール>
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新見永治 SHIMMI Eiji
1982年より名古屋市中区でスペース「パルル」の運営に関わっている。2011〜2012年創設から関わった名古屋市長者町のアートセンター「アートラボあいち」の運営に携わる。あいちトリエンナーレ2013へプロジェクトFUKUSHIMA!の一員として参加。