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コラム 2015.08.19

#50 杉原信幸(原始感覚美術祭実行委員会)


祖父の建てた長野県大町市木崎湖畔の合宿所で幼いころから夏休みを過ごしていた。その老朽化した2棟の建物のうち、1棟を壊して、蝶の採集に訪れていた探検家・食生態学者の西丸震哉さんの記念館を父が作ることになった。

西丸震哉さんが集めたパプア・ニューギニアの原住民の弓矢や極楽鳥のコレクションのもっている、止まっていた時の動きだすような色の鮮やかさと出会い、私は記念館のデザインを行った。2008年に記念館がオープンし、私は残った建物にアトリエをつくって暮らしはじめた。

美しい湖畔に、不釣り合いなアートを持ってきて展示するのではなく、その地で感じ、その地と人との出会いの中から生みだす滞在制作と、音楽や舞踏、科学、農業などあらゆるジャンルを超えた表現が出会うことのできる場をつくること。そして無農薬のお米農家を営む友人とその仲間たちと、大地とともに生きる「生活における花」としての祭「信濃の国 原始感覚美術祭」を作り上げてきた。

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美術祭は今年で6年目の開催となる。地と、その地を選び暮らす人、ずっと暮らし続けてきた人が、「まれびと」としてのアーティストと出会う。

旅すること。旅することの落差によって生まれる孤独な根なし草として「まれびと」は、地と結びつき、地の人ですら忘れているような大自然の露頭する古代からの聖なる場に感応し、時を超えた地の記憶、古代に精霊と呼ばれてきたようなものの姿を可視化し、造形化する。地の媒介者として、創造という遊びに開かれた無心の舞いを舞う。
「まれびと」とは、民俗学者の折口信夫がこの島国の根幹をなす概念として、海を超えてやってくる来訪神を位置づけたものだ。「まれびと」という概念と、アーティスト・イン・レジデンス、アートフェスティバルの構造は繋がっている。「まれびと」は地域共同体の外部存在が1年に1度訪れ、閉塞化した日常を破壊し、「ハレ」の場へと変容させ、日常の「ケ」を祓う。

「まれびと」は、通常内部の人間が、祖先や神、精霊に変容し、異形化することで、成り立っている。都市化、近代化によってその変容の構造を内発的に維持できなくなった状況において、アートと呼ばれる外発的な力によって、「ハレ」の場を創造するという祭が求められているのではないか。
そして祭とは、境界の場である。6年間の原始感覚美術祭において、滞在作家と地元4組が結婚、定住し、4人の赤ちゃんが生まれている。それは、外部と地元が出逢い、アートと伝統、都市と地方を結ぶ、境界の場としての祭を生みだすことである。全身全霊をもって祭を生みだしていく過程において、あらゆるものが、混沌としたなかで結ばれていく。地に結ばれていく。

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今回、森の中で偶然に作品と出会うという、スペンサー・バイレスの6つの作品のバリエーションによって、サイトスぺシフィックということについて考えさせられた。作ったものをもってくること、その違和感。そこにあるものをもちいて、そこに立ちあがるものの力、その地の声としての精霊性と親和性。
そこにいるということ、身体のとけていくような時の身体化。無心にひらかれる今という原始に立つこと。
古代旅人は、一夜の宿をとる時にも、地霊に言霊をもって語りかけ、へんばい(舞踏)を舞った。そのような繊細に震えるような地との関係性―精霊性について考える。そこには移動という問題がある。人の移動、ものの移動、道ということ、交流し、混ざりあう庭としての祭の場。

3年間美術祭に参加したキム・ヨンミンが制作の場に選んだ場所は、子どもの遊び場になるような適地だった。昔、子どもの遊んだ境内の林に、子どもの走り廻る姿のような波を、杉の枝の曲線で表現し、昔子どもが泳いで遊んだ水辺に湖の唄を聴き、その形を造形化した。ヨンミンの推薦作家であった今年の参加作家リー・クーチェは、ヨンミンの作品の奥に広がる林に籠り、集めた木々と苔によって20mに渡る水の龍が大地をうねり舞うような「水のアウラ」を制作した。

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その場所は、地元の古老が子どもの頃に、火事が5件続き、不動明王の石碑を建てた場所であることがわかった。そのような「いわく」のある場所を直感のみで探り出し、その場所にイメージを立てる力が、確かに原始感覚をもったアーティストにはある。

それは古代から受け継がれる人と自然の結ばれる場に、一時だけ立ち上がる祭の仮屋としてのインスタレーションを思い起こさせる。そこにはアートという言葉を超えて、忘れ去られている人と自然の関係性を甦らせる、あらたなる伝統となりうるような祭の予感が萌芽しているのではないか。その姿をぜひ一度体感してほしい。


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杉原信幸 SUGIHARA Nobuyuki 
1980年長野県生まれ。2007年東京藝術大学油画専攻修了。詩人の吉増剛造ゼミ参加。2008年個展『丸石座』詩人の吉増剛造と共演。2010-12年「会津・漆の芸術祭」参加(嘉永蔵/ニ十間蔵/福島)。2011/2012年「ストーンサークルフェスティバル」(大山ふるさと資料館/小牧野遺跡/青森)縄文友の会(田口ランディ、山田スイッチ)と現代のストーンサークル制作。2012年粟島アーティストインレジデンス(粟島AIR)2012/spring参加。「Jara Island International Baggat Art Exhibition」(韓国)参加。 2014年「大町冬期芸術大学」空間美術コース講師。2010年より「信濃の国 原始感覚美術祭」を主催。2014年よりAAF参加。
信濃の国 原始感覚美術祭 http://primitive-sense-art.nishimarukan.com/