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レポート 2015.08.28

2015交流支援プログラム レポート03  NPO法人 こえとことばとこころの部屋→酔っ払いに愛を


AAFネットワーク団体のスタッフによる「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。最近では共同プロジェクトの制作なども行われています。
今回は「NPO法人 こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」の沖田都さんのレポートです。

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<レポート>
まちが釜ヶ崎夏祭りで盛り上がるなか、西成市民館の一室で静かに始まった報告会。夏祭りの出番の終わったおじさんたちがだんだんと集まってくる。
そもそもこの企画が立ち上がったのは、映画「谷川さん詩を作ってください」。この映画に出演していた坂下範征さんが映画を見終わった後、同じく出演していたイタコの小笠原ミョウさんに亡き奥さんを神降ろしして欲しい、とつぶやいたこと。そしてもうひとつ、上田假奈代さん(ココルーム代表)は映画を見て、坂下さんはいつも突飛で突き抜けていく人なのに、映画の中ではどことなく閉じ込められている感じを受けた。そこから突き抜けて欲しいと思ったとき、ミョウさんと坂下さんを会わせることを思いついた。
そんな二人の想いがぶつかり、即座に八戸に行くことが決まったのである。有難いことに、AAFの助成をいただき、「釜ヶ崎芸術大学(釜芸)in八戸」という企画を盛り込むことができた。報告会では、そんな八戸への道中を振りかえった。

いわき、福島を経て、八戸へ イタコに逢う

2015年6月6日、謎の擬似家族4人組(坂下さん、假奈代さんと5歳の娘さん、スタッフの沖田)が大阪を出発し、まずは「いわきアリオス」で「AAF2015オープニング記念記者発表会」に参加。この足で八戸まで行くことを伝えると、会場から後押しするように大きな拍手をいただいた。
続いて、福島市にわたり「はぴママnet」という福島で暮らすママたちのネットワーク団体が主催する会で詩のワークショップを開く。詩を聞いてポロポロと辛い経験を語り出す方もいらっしゃった。また「震災がなかったらこんなに生きることについて考えることもなかった。震災があってよかったのかもしれない」と思わぬ言葉を聞くこともできた。坂下さんはワークショップでペアになった方に、八戸で奥さんに会えることを温かい詩にしてもらい、感銘を受ける。坂下さんにとって、もうイタコに会わなくてもよくなったと思うほどだったという。
無事に会を終え、その足でエメラルドグリーンの新幹線に乗り、ついに八戸へ。「八戸ポータルミュージアムはっち」で今川和佳子さん(元はっちスタッフ、「酔っ払いに愛を」ディレクター)と合流し、丁寧に案内していただく。その後、美味しく手頃なお店で活きの良い魚を食べて、待望のイタコ・小笠原ミョウさんに会いにゆく。
タクシーを降りると電信柱に"小笠原イタコ"と大きな看板が掲げてあった。ご自宅の前にもイタコの看板。神妙に中へ入ると、まるで診療所のような待合部屋へ通され、ガラス戸の奥で神降ろしが行われていた。
1時間ほど待ったのち、坂下さんの奥さんの神降ろしがはじまった。その様子は映像で残していたため、今回の報告会の会場で見ることができた。青森の方言が強く聞き取れない部分もあったが、坂下さんは食い入るようにミョウさんを見つめていた。映像には、亡くなった奥さんの命日や住所、生年月日などをミョウさんに伝える坂下さんの姿。ミョウさんが般若心経を唱えはじめ、次々とあらゆる神様の名を呼び、大きな数珠を転がす。少しの間を置いて、つらつらとミョウさんは話しはじめた。
「大阪からね、遠いところ来てくれてありがとうね、...心を責めることもあるかもしれないけど、人は一人では生きていけないから、感謝を忘れずに、まわりの人を大事に生きてください...」
坂下さんは、恨み言を言われるのではないかと思っていたためか、汗でびっしょりとなりながら、何度も何度も頷いていた。映像を見終わったあと、坂下さんは「心は声に宿るのかもしれない。ミョウさんの声はずっと離れない。一生忘れることはできないだろう」と振り返った。
帰り際、とても小柄なミョウさんが縁側に立ちこちらを見送る姿が印象的だった。といっても、ミョウさんは目がご不自由なのでこちらが見えていたわけではないと思う。でも確かに見つめてくれていた。夕暮れの、静かな帰り道だった。

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釜ヶ崎の報告会で語られる八戸

報告会では、駆けつけてくれた今川和佳子さんに最初に発表いただいた。じつは今川さんはこれで5回目の釜ヶ崎。ココルームでスタッフをしていたアサダワタルさんと企画を組みイタコを呼んだこともあり、ふしぎな縁を感じてならない。
300年近く続くという八戸の祭「八戸三社大祭」「えんぶり」の紹介。地域の中で大切に受け継がれてきたこれらの祭の背景に、八戸の市民力の高さがうかがえると言う。また今川さんは、釜芸のメンバーも見学した公共施設「はっち」の立ち上げから関わっている。行政の建物としては様々な機能が盛り込まれすぎて、まちの人にはわかりにくい印象を持たれてしまい、オープン前は批判の声も多かった。しかし、オープンの一か月後に東日本大震災が発生し、自家発電の備わったはっちは避難場所として活用されたことで、公共的な安らぎの場所として認知されるきっかけとなった。もともと市民力の高い八戸において、その後もさまざまな事業が市民主体で展開され、今では毎日多くの利用者が訪れている。そして、昔ながらの横丁のあちこちでパフォーミングアーツの公演を同時多発させる「酔っぱらいに愛を~」(AAF2009-13参加プロジェクト)について語っていただいた。

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釜芸in八戸 そして再びイタコへ

続いて、6月に八戸を訪ねた際に「おらん洞」で開催した「釜芸in八戸・詩のワークショップ」の様子を振り返る。
この日、八戸工場大学のみなさんをはじめ、仕事帰りの方や、偶然ラジオを聞いて飛び込んできた親子など30名近くが集まった。今回は「思い出の場所」をテーマに詩を作り、発表。場が温まる。
くたくたになりつつも、ワークショップの翌日はもう一人のイタコ・中村タケさんに「岡本太郎」を呼び出してもらう。岡本太郎は、ご存知「太陽の塔」制作者である。1970年大阪万博のころ、多数の労働者を担保する必要のあった日本は、大阪の釜ヶ崎地区にたくさんのドヤ(簡易宿泊所)を作りあげた。そんな時代の象徴とも言える太陽の塔。假奈代さんは、イタコに呼び出してもらう故人を考えた時、「岡本太郎」しかいないと思ったのだ。
タケさんにそのことを伝えると、タケさんは岡本太郎のお墓やご実家の場所をできるだけ細かく尋ねはじめた。まるで黄泉の世界の住処をあたっているようだった。一度試したが呼び出せず、もう一度試してみたところ、いつのまにか岡本太郎の言葉がはじまっていた。
「仏様の世界では会釈をするくらいで言葉を交わすことがなく寂しい。呼び出してくれてありがとう。あと十年長生きしたかった。あなたとぼくとでは時代が違うから求められているものも違うだろう。まわりの人とよく話し合って、中傷されることがあってもがんばって。信じた道をいきなさい。10月20日、南の方角に気をつけなさい...」
と柔らかい声が響いた。
終わったあとにタケさんが「岡本太郎さんが言いたいことはわかるのだが、自分の持っている言葉で話すしかできないので、うまく伝わっていないかもしれない、難しかった、申し訳ない」とおっしゃったのが印象的だった。
そして夜には、「釜芸in八戸・市民活動やアートマネジメントに関する意見交換会『八戸と釜ヶ崎で、であいのなかで芽吹くもの』」を開く。前日から引き続き参加してくれた親子の姿がある。今日来ている大人がどんな仕事をしているのか、子どもにもわかるように語り合う。中学生の息子さんは「学校ではつまらない大人ばかりだと思ってた。でも今日来て、こんなに面白い大人がいたんだなと思った」率直に感想をくれた。

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出逢って、はじまる

坂下さんのとても個人的な想いと周囲のおせっかいが絡まりあったこの企画。怒涛の5日間のあと、八戸では能動的にゆるやかな学び合いの場「はちのへ夜學」が始まったそうだ。遠く離れた八戸と釜ヶ崎に芽吹いた新しい風がどこへ向かうのか、期待が膨らむ。

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<開催概要データ>
[企画名]釜ヶ崎報告会  ー釜ヶ崎芸術大学in八戸~映画「谷川さん、詩をひとつ作ってください。」を縁にして、釜ヶ崎の日雇い労働者が八戸のイタコに逢いにゆくを体験してー
[実施日] 2015年8月15日(土)
[招聘者]NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)【大阪市西成区】
[訪問者]今川和佳子(酔っ払いに愛を)【青森県八戸市】

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<タイムテーブル>
◎2015年8月14日(金) 
大阪市地域等における芸術活動促進事業「地域に根ざしたアートと文化」キックオフ・フォーラム・交流会で合流
◎2015年8月15日(土) 
12:30 事前打ち合わせ 
13:00~15:00 釜芸in八戸報告会 会場:西成市民館講堂
15:00~ 釜ヶ崎夏祭りに参加

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<執筆者プロフィール>
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沖田都 OKITA Miyako
1982年生まれ。福岡県北九州市出身。
俳優・共演家。劇団・公共劇場・商店街などとの協同を経て、現在ココルームスタッフ。日々の生活の中に演劇を見つけることを喜びに、共に生きることについて考えている。




NPO法人 こえとことばとこころの部屋 http://www.cocoroom.org/
酔っ払いに愛を https://www.facebook.com/yopparai8
八戸ポータルミュージアムはっち http://hacchi.jp/
映画「谷川さん詩を作ってください」 http://tanikawa-movie.com/