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コラム 2015.07.20

#49 久保田翠(認定NPO法人 クリエイティブサポートレッツ)


認定NPO法人クリエイティブサポートレッツは、2000年から活動を始めて、今年で15年。そのきっかけは、障害のある長男の誕生だった。彼の誕生によって人生が一変し、仕事(建築・環境デザイン)ができなくなったことによって、それまでつながっていた社会との関係を失ってしまった。そして、普通に子育てをしたいと望んでも、障害の子どもとその家族は、だんだんと社会から「周縁化」して行く。

自分たちが心地よく居る場所を自ら作るしかない。それがクリエイティブサポートレッツの始まりだった。
レッツは「居場所」にこだわっている。設立から5回の引越しをしてきたが、常に「集える場所」だけは確保してきた。それは、自分たちの居場所でもあるが、同じように、なんとなく周縁化してしまっている人たちの居場所ともなっている。現在は、静岡県浜松市西区入野町で「たけし文化センターのヴぁ公民館」と、「障害福祉施設アルス・ノヴァ」を運営している。二つの施設はほど近く、どちらも古い3階建てのビルで、車通りの多い旧道沿いにある。

のヴぁ公民館はクリエイティブサポートレッツ、オリジナルの私設公民館。いろんな人がいろんな企画を持ち込んだり、休んだり、語り合ったり、講座を実施したり、勉強したりしている。アルス・ノヴァには、障害のある子どもから大人まで毎日30人以上の人たちが通ってくる。スタッフはパートさん含め約20人、のヴぁ公民館にふらっとやってくる人もいるから、この界隈に、毎日いろんな人がごちゃごちゃといる感じだ。
アルス・ノヴァには障害施設にあるような作業がない。基本的に、やりたいことをやる。みなほぼ自由に過ごしている。言葉によるコミュニケーションがとれない重い知的障害の人が多い。それに加え、言葉を巧みに操るが、コミュニケーションに繊細な精神障害の人も多く通っている。静かな環境を好むと言われる人たちが、混沌とした場所にこんなにも多く通ってくるのは実は意外だった。結局、人はおなじタイプの人ばかり集まっても楽しくないのだと思う。

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たけし文化センター のヴぁ公民館

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障害福祉施設アルス・ノヴァ

たけし文化センターのたけしとは、私の息子、久保田壮(くぼたたけし)のことだ。今、アルス・ノヴァに通っている。
たけしは19歳になるが、一人で食事も排泄もできない。常に動き回り、片時もじっとしていない。テレビも見ないし言葉も発しない。ひたすら毎日、入れ物に石を入れて、寝るとき以外カタカタと鳴らし続ける。こだわりも強く、アルス・ノヴァに行くのも何をするのも、すんなり動くことができない。そのほか、てんかん、睡眠障害、側湾症など、まあ問題満載の人だ。
最近一番困るのが、宿泊だ。
母である私がどこかに出張の時には、泊まりができる他の施設に預けていくしかないが、月に1回ぐらいしか使えない。だからプライベートでどこかに行きたくてもほぼ無理の状態。最近預けた施設で、たけしは「ご飯を食べない」という強硬手段に出た。1泊2日預けられて5食全く食べない。他にも、「服やシーツをビリビリに破いた」「薬を飲ませても全く眠らない」など、いろんなことをやってくれる。施設は慣れたもので、「気にしなくていいですよ」と言ってくださるけれど、これは明らかに抵抗。「預けやがって...」という声が聞こえる...。
だからといって、あなたとずっといるわけにいかない。
こっちだって、たまには休みたいし、仕事だってある。いろんなもの見に行きたいし、人にも会いたい。しかし毎回、後ろ髪引かれる思いで預けるのもいい気持ちではない。仕事の時は割り切るが、プライベートでたまにたけし抜き家族で、ちょっと洒落たレストランで食事をしていても、気になって、結局早く迎えに行ったりする始末。おまけに、施設のお泊りのあと、必ず機嫌が悪くなり、体調を崩す。

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そこで考えたのが、「キャンピンガー」だ。
我が家は決してアウトドア派ではない。川や海や山に行きたいわけではない。
車で移動できて、車中、たけしは石遊びに興じ、家族が見張っていなくても済むように。
騒ぐし、迷惑がられるからレストラに行けないたけしが、ご飯が食べられるように。
何をしでかすかわからないから怖くて旅館に泊まれないたけしが、宿泊できるように。
暑いのも寒いのもダメだから野宿も難しいたけしが、夜寝ることができるように。
そう考えると、キャンピングカーはどうか?

私のように、周縁化している家族や人は結構多い。引きこもってしまった、仕事ができなくなってしまった、介護しなければいけない家族がいるなど。そういうことで、家族は簡単に社会から孤立していく。そこに横たわる問題は深刻であり、たやすく解決などできない。しかし、それでも日常は流れていく。そうであるならば、その日常に少し刺激を与えれば、その関係性が変化していくかもしれない。つまり、これは「家族の再生」のためのプロジェクトなのだ。
障害のある子どもがいることで、社会からどんどん周縁化していく家族が、「一緒に出かける」ことを通して、もう一度社会との関係を作り始める。父、母、姉、弟とそれぞれ固定化してしまった関係性を溶解し作り変える。そして、一度社会から周縁化してしまった家族でも、実は何度でも社会と新しい関係性を作ることが可能なこと、そうしたことを証明しようとするプロジェクトといえるのかもしれない。

考えてみればレッツの事業は、いつもこうして生まれてきた。
居場所がないから居場所を作り、施設がないから施設を作り、いろんな人がごちゃまぜでない社会だから社会を変えようとする。その元となることは何かといえば、私とたけしと家族といった「最小単位の社会」で感じている「大きな社会」との違和感、圧倒的な不自由さ、不便さ、理不尽さ、許せなさ。そうしたことを、「すり替える」「楽しむ」に変えて来たのだと思う。
それは、本来アートが持っている、「わからないことをわからないままにする」、あるいは「わからないままに誰かに伝える」、そして「新しい価値観を作り出す」といったことと同義なのではないだろうか。

福祉、教育、文化、政治、地域、コミュニティーとあらゆる分野で、規則や規範があり、固有の価値観がある。めまぐるしく変化する社会の中で、そうしたものに苦しめられている人がいるのも事実だ。そして、一人ひとりが、その規則、規範、価値観が本当に必要なのか問い、時には勇気を持って、自らぶち壊すことも必要だ。
そして、現代では「個人・家族といった最小単位の社会」から「変革」がはじまり、その最小単位の社会こそが、今盛んに叫ばれている「民主主義」の根幹をなしているのだと思えてならない。


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久保田翠 KUBOTA Midori
認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長。障害福祉施設アルス・ノヴァ施設長。
建築設計、環境デザインに携わるが、障害のある長男の出産を契機に、2000年にクリエイティブサポートレッツを設立。2004年、NPO法人化。2014年、認定NPO法人取得。2008年よりたけし文化センター事業開始。2010年静岡県浜松市西区入野町に、障害福祉施設アルス・ノヴァ設立。2014年、たけし文化センターのヴぁ公民館開設。1998~2014年静岡大学農学部非常勤講師 http://cslets.net/