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コラム 2015.03.20

#45 原 亜由美(写真の町シバタ・プロジェクト実行委員会)


わたしが『写真の町シバタ』に関わるようになって2年経つ。シバタは新発田と書く。往年の高校野球ファンなら、甲子園での新発田農高の活躍を憶えていらっしゃるかもしれない。小説がお好きなら、昨年末逝去された宮尾登美子氏の『藏』に新発田が登場するのでご存知かもしれない。大正期、亀田郷(現・新潟市)で造り酒屋を営む田乃内家の嫁は、代々新発田の女性であった。未だ前近代的な風習の残る地方において、新発田は芯の通った女性の産地として描かれている。その背景として、当時の新発田は、陸軍第十六連隊の駐屯地であり、女学校があり、廻船業が繁盛し、夏の諏訪神社の祭礼では威勢のよい"けんか台輪"が名物の、たいへん活気ある町であるがゆえ、とされている。各町内の台輪と呼ばれる山車が帰途の先陣争いでぶつかる"帰り台輪"、別名"けんか台輪"こそ今も健在だが、近代の、あるいは城下町以来の活気は、現代の新発田において、かつての気配をわずかにとどめるのみだ。

明治期に興隆した新発田の広大な商店地区には、近代文化の象徴である写真館が多く軒を連ねた。創業140年を超える老舗写真館が今も存続している。戦火を免れたため、東京をはじめとする大都市で消失した貴重な写真草創期の乾板写真が、今も民家に残る。もっとも昭和10年の新発田大火や、かつて東洋一を謳われた桜の名所・加治川の氾濫など、災害の多い町でもあるが、「都度、写真を持って逃げた」という話を聞く。写真文化は淡々と受け継がれ、現代でも写真館で記念撮影をし、アルバムを保管する家庭が多い。わたしは新発田でも農村部の出身で、東京で20年近く生活しており、文化圏としての新発田をどこか俯瞰して眺めているが「確かに新発田は写真の町である」という実感が、自称ならず客観性をもってして在る。

わたしは東京での音楽メーカー勤務を経て、デザインや撮影の制作コーディネイト業をしている。東日本大震災後、幸い東京からも日帰り圏なので、拠点を新発田に移したが、当時、多くのひとびとがそうであったように、未曾有の災害を目前にして、自分自身の来し方や生業に思いをいたさずにいられなかった。自分の生業が役に立たないものに思われて仕方なく、実際、音楽関係の仕事は延期や自粛も多かった。そんな自問の日々に出会ったのが『写真の町シバタ』の活動である。地元の敬和学園大学と協働する『新発田アーカイヴス』の発表会に足を運んだところ、懐かしい写真のスライドショーに観客が沸いていた。そしてみな、輝いた表情で思い出を語って止まらない。わたしは、役に立たないと思われた自分の生業が肯定された気持ちになり、それは得も言われぬ救いであった。写真や音楽など、記憶装置の持つ本来的な力に気づかされた。

実際、東日本大震災では、失われたひとや土地の記憶を求めて被災写真を救出する活動が始まった。生命身体にかかわらずとも、衣食住の次、あるいは同じくらい大切なものが記憶であるのかもしれない。特に土地と記憶がしっかりと結ばれることは、そこに暮らすひとびとにとって大きな力になると思う。

『写真の町シバタ』は主な活動として『まちの記憶』と題した展示を行なっている。商店地区を中心にアルバムから写真を選んでもらい、エピソードを聞き取りの上、ポスターにして各所に飾る。写真は古いものばかりとは限らない。奇しくも東日本大震災の年に開始した『写真の町シバタ』は今年で5回目を迎えるが、例年、何気ないスナップ写真を選ぶ方がおられる。理由を尋ねると「被写体の人物が亡くなったので」と言われることがある。写真を選ぶ行為に込められた、言葉にならない思いに胸が詰まる。

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新発田名物シンガポール食堂、昨年の展示

地方におけるアートとは何か? 大きな命題だが、この頃のわたしには、それについての迷いがほとんどない。あいにく一言では言い表せないが、ここに書いてきたエピソードに自分にとっての解の断片がある。大学で美術史を学んだり、あるいは商業デザインに関わったりと、人並よりアートと遠からずの人生を送っているつもりだったが、思いもかけず故郷に、自分にとっての普遍的なアートと思える活動があった。地方に活気を取り戻すのは容易でないが、個人が主体的に動くと嬉しい偶然が誘発される。その確率は都会よりも実感として高い。そこから何かが始まる気がするし、わたしはそれを楽しみたい。

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原 亜由美  HARA Ayumi
1975年生まれ。新潟県新発田市出身。制作コーディネイト業。2013年より写真の町シバタ・プロジェクト実行委員。2014年より新発田学研究センター客員研究員、敬和学園大学科目履修生として、新発田出身のハワイ移民についてリサーチ中。2015年度より『町の編集局シバタ』の編集局長として、『写真の町シバタ』他、地域でのさまざまな活動の運営をサポートする予定。
写真の町シバタ photo-shibata.jp