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レポート 2014.10.15

2014交流支援プログラムレポート07「縄文文化を受け継ぐ地に生まれたアートプロジェクトを訪ねる」


AAFネットワーク団体のスタッフによる「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
今年も20プログラムが実施されます。
2014年、7番目のレポートは、やまなしアートツリー(山梨県甲府市)を訪ねた、原始感覚美術祭実行委員会(長野県大町市)の杉原信幸さんによるレポートです。

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<レポート>

甲府駅前の歴史公園の丘の上に赤いぶどう提灯が据えられ、広場には緑のぶどう提灯と、中央にはステージが組まれていた。甲府城の山手門の石垣の階段から、ひょっとこ音頭にのって、ひょっとこ面を被ったふんどし姿の男が二人、照明に照らし出されて登場した。この西日の登場シーンは、印象に残るものだった。石段をひょっとこ音頭の軽妙なリズムにのって降り、中央ステージまでくると、二人は相撲をとるポーズをしてから、面をとり歌い始めた。

西日のパフォーマンスが終わると、五味文子、幸田千依が縁故節大盆踊り大会の開始を伝えた。縁故節の歌詞を作るワークショップで集められた歌詞を五味文子が歌っていく。その中で、風林火山商店街(五味文子、幸田千依、水川千春、山中カメラ)のめいめいの想いが語られる。そして集まってきた観客は、円を作り盆踊りを始める。歌詞を作った本人がいる場合は、本人が歌うこともある。音頭をとる五味文子が全体をコントロールしていく言葉や、歌うことに慣れていない素人のワークショップをひとつひとつ丁寧に行っていくことは、祭のうねりをつくりだすには、むしろ、妨げになっているようにも感じられるが、そのひとつひとつの歌詞を作った人の想いを大切に歌いあげていく五味文子の心の機微が、甲府という地において、その地を愛する想いに支えられ、祭のうねりとささやかなるものを絶妙に結び付けているようだった。

ぶどう提灯に明りが灯され、踊りの行列は、丘の上まで広がり、丘と広場をこうふの山とまちに見立て、その周りを大きな人の円が包んでいく。また、全ての歌詞を歌いきるまで、相当長い間、観客も踊り続けるのだが、その輪は、むしろ大きくなっていく。これは丸石神を祀り、縁故節という文化を育んできた甲州人の血なのか。クライマックスには、出産をおえたばかりで、会場に来られなかった水川千春が電話を通して、べんてんさまの歌詞を歌う。そして、変調された縁故節にのって、踊り手たちは、熱狂的に踊りきり、祭はおわりを告げた。

並いる山梨のミュージシャンの生音で演奏される縁故節は、ともすると陳腐化のイメージをもつに至った盆踊りの生命を甦らせる。五味文子が音頭をとり、山中カメラが、演出、指揮することで成り立ったのだが、山中カメラが昨年のタイトル「縁故節盆ダンス」を「縁故節大盆踊り大会」に変更したのも頷ける。この地には、盆踊りが生きている。ゆえに生音なのだ。

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 縁故節大盆踊り大会風景

縁故節は、山梨県の山間部で行われてきた盆踊りに歌われる歌で、昔は1時間も2時間もかけて山の向うから歩いてきて、即興で歌を歌いあい、男女が結ばれることもあったと五味文子の祖母の山本初子さんから話を伺った。

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銀座通り商店街展示風景・針生卓治作品

昨年甲府の山とまち全体に展開された展示を、今年は、銀座通り商店街へ集約したという。まず、商店街に着くと、メガネ屋さんの奥さんが丁寧に作品の説明をしてくれる。この感じは、とてもよい。作品はポップな山水画で、店という空間に作品が成立するのかということの可能性は感じた。つづいて本屋の中の作品。ごく普通に本の並ぶ店の一角だけ、雑然と積み上げられた本のインスタレーション。木で作られ、洋書の貼りつけられた本は、本屋という秩序だった存在の一角に混沌を持ち込む違和を成立させていた。これが商店街の展示では、成功しているように思えた。

盆踊りを終え、翌日の風林火山商店街プレゼンツの銀座通り商店街内に放送されるラジオに出演し、代表の小林純さんと話した時、小林さんは、今の自分たちのサイズにあっている展示だと言った。展示は、県内出身者が主で、コンパクトにまとまっているが、縁故節大盆踊り大会のエネルギーに比すと、地元になじむ作家達には、破綻するような力がない。今、ここに辿りついたこうふの芸術祭が、甲府のまちと山のもつ魅力を引き出すには、やはり外部者と地元との出逢いが必要ではないだろうかと感じた。

地元を大切に行われるこうふのまちの盆踊りから原始感覚美術祭も多くのことを学ぶごとができた。盆踊りのスタッフが有能だと、小林さんに言うと、音響、照明は、プロにお金を払ってお願いしている。全部自分たちでやると疲れ果ててしまうから、お金はかかるけど、無理はしないという。なんでも全精力でやりきる原始感覚のやり方もよいが、スタッフを大切にすることについて考えさせられる。
こうふは、運営、地元作家、外部作家が一丸となって盆踊りを作り上げ、参加する観客も、参加費を無料にすることによって、できるだけ参加しやすいようにしている。原始感覚は外部と地元の出逢う滞在制作によって魅力的な作品を生み出し、助成金だけでなく、パスポートを販売することで成立し、作家にも制作費を出している。それは、農家がお米を売って生きていくように、作家も同じ土俵に立つこと。おもしろいものができなければ、自ら赤字を被るという運営の危機意識によって、クオリティを維持しているとも言える。それは外部の集客に大きな部分をおっている。しかし、アートに興味のない地元の人にも参加してもらえるかは、とても大切な問題としてあって、こうふの盆踊りのような、ポトラッチ(贈与の祝祭性)の必要を感じた。
大町で開催された北川フラム氏の「食とアートの廻廊」が、集客を行う観光重視、今冬に行われる小林真理氏の「大町冬期芸術大学」が地元のための文化インフラを目指すという対極の例として存在し、原始感覚はその両方でありたい。考えてみれば自分の制作は、すべてポトラッチになってしまうから、自分一人ではできないことを美術祭という形でやっているところもあり、両方必要なのだが、ポトラッチだからこそ一丸となれる「祭の根」について考えてみたい。

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風林火山の商店街ラジオに出演

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<開催概要データ>
[企画名]縄文文化を受け継ぐ地に生まれたアートプロジェクトを訪ねる
[実施日] 2014年9月20日(土)~21日(日)
[招聘者]小林純、五味文子(やまなしアートツリー【山梨県】)
[訪問者]池田武司、杉原信幸、中村直人、西川直子、淺井真至(原始感覚美術祭実行委員会【長野県】)

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<タイムテーブル>
◎9月20日(土)
16:00~18:00:こうふのまちの芸術祭展示見学
 会場:銀座通り商店街
 商店街に展示された作品の見学。
18:00~21:00:縁故節大盆踊り大会参加
 会場:歴史公園
 信長のライブ
 西日によるパフォーマンス
 風林火山商店街(五味文子、幸田千枝、水川千春、山中カメラ)による縁故節大盆踊り大会
22:00~23:00:こうふのまちの芸術祭メンバーとの交流
 会場:山本初子宅
◎9月21日(日)
08:00~9:00:縁故節についての話
 会場:山本初子宅
 山本初子さんのお話を聞く
09:00~11:00:獅子岩・獅子滝見学
 会場:前屋集落
11:00~13:00:こうふのまちの芸術祭展示見学
 会場:銀座通り商店街
 風林火山商店街ラジオに参加

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<執筆者プロフィール>
IMG_0025.JPG杉原信幸 Sugihara Nobuyuki
1980年長野県生まれ。2007年東京藝術大学油画専攻修了。詩人の吉増剛造ゼミ参加。2010年より「原始感覚美術祭」ジャンルを超えた出逢いの場から創造を行う祭を主催。人と自然の境界の場をつくり、身体によりマツリを行う。