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レポート 2014.09.10

2014交流支援プログラムレポート05「尾道に学ぶ"開かれた場"のつくり方、続け方」


AAFネットワーク団体のスタッフが各地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
今年も20プログラムが実施されます。
2014年、5番目のレポートは、光明寺會舘/AIR zine 編集室(広島県尾道市)を訪ねた、SAPPORO Far East Art Research Project(北海道札幌市)の宇佐見祥子さんによるレポートです。

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<レポート>

新尾道駅に着くと、尾道市立大学で教鞭をとられているアーティストの小野環さんが迎えに来て下さった。小野さんが幼少時代を過ごしたという函館の話をしながら、狭い商店街を車で進む。斜面地の麓に車を置き、光明寺會館を目指す。迷路のように入り組んだ路地、無秩序に現れる石やコンクリートの階段、折り重なるように立つ家々。いかにも尾道という景観を抜けて目的地に辿り着くと、私は挨拶もそこそこに扇風機にかじりついた。光明寺會館のエントランスにあるAIR CAFÉでは、地元のおばあさんたちがかき氷で身体を冷やしていた。ローカルテレビで取り上げられた効果か、地元住民の来訪が増えているという。二階には眺めの良い展示室があり、展覧会の設営まっただ中だった。白く塗装された空間にはピアノもあり、音楽ライブやワークショップなども開催されるオルタナティブスペースとなっている。

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光明寺會館のAIR CAFÉで地元のお客さんと談笑する亀井さんと小野さん(後ろ姿)

この光明寺會館を拠点に、空き家再生プロジェクトを実施するNPOや2年に一度のレジデンス事業「AIR Onomichi」が行われている。かねてから、AAFの報告会などで目にするドキュメントの発行頻度やクオリティの高さ、多彩な活動内容が気になっていた。多角的にバランスよく運営されているイメージから、きっと大所帯の組織なのだろうと踏んでいた。しかし軸となっているのは、小野さん、光明寺會舘の代表であり「なかた美術館」のディレクターでもあるアーティストの三上清仁さん、様々な運営業務を一手に引き受ける亀井那津子さんの3名だった。

小野さんに案内して頂きながら、空き家再生物件やAIRの作品制作現場を見てまわった。斜面地にあった約400軒の空き家は、今年で7年目となるNPO法人尾道空き家再生プロジェクトの運営する「空き家バンク」によって70軒以上の入居があり、減少してきているという。尾道市立大学の学生や卒業生、外部からの移住者により、20〜30代の住民が占める割合が年々大きくなっているそうだ。この流れでいけば、小学校の学区内の児童数が増加傾向になる可能性もあるという。順調に見える再生プロジェクトだが、AIRが注目しているのは、ちょっとした手入れでは再生不能な物件だ。床が抜け、天井が落ち、廃墟のようになっていても、重機どころか車すら乗り入れられないため、解体されぬまま放置されている物件も多い。昨年のAIRで滞在したマレーシアのアーティスト、シュシ・スライマンさんは、民家を解体し再生するまでのプロセスを作品として展開している。現在は、解体現場から出てくる建築資材や建具、生活用品などを、考古学の遺物のように丁寧にアーカイブしている段階という。9月と10月の週末には、斜面地に点在する作品を含むエリア全体をオープンエアーミュージアムに見立てたガイドツアー「AIR DIVE TOUR」が行われる予定だ。

夕暮れ時、尾道の空き家再生プロジェクトの象徴である通称「ガウディハウス」を見学したあと、なかた美術館を訪ねた。開催中の展覧会に出展している尾道在住のアーティスト勢に加え、尾道の対岸にある離島の百島、岡山、香川などからもアーティストやキュレーターの面々が集まり、展示室内のテーブルを囲んでのミーティングが始まった。ディレクターの三上さんからは「尾道というフィールドで、アーティストとして今後どうしていきたいか?AIRや美術館はそこにどうコミットできるか?」という問いが投げかけられた。たまたま縁あって尾道の住民となったアーティストたちに共通していたのは、郷土愛とは真逆の意識だった。むしろ、「根を張ることを考えてはいけない」というスタンスで、常にニュートラルな、あるいは斜めからの視点を大切にしているようだ。移住歴14年の小野さんは、尾道が持つ場所の複雑性や光と影、引き出し(=空き家)の可能性を、他のアーティストと共有してみたいという考えからAIRを始めたそうだ。「根づく」のではなく、拠点である尾道に外からアーティストを呼び、自分たちも外へ出て、また戻ってくる。AIRが循環機能となり、尾道の生き生きとした空気をつくっているように感じた。

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尾道空き屋再生のシンボル、ガウディハウス

しかし、国内外からアーティスト数名を招聘する数ヶ月間は、彼らのサポートで自分の時間が潰れてしまうというのに、なぜAIRを続けるのか。小野さんの答えは、「呼びたいアーティストがいたから」というシンプルなものだった。当たり前のことだが、やりたくないならやらなきゃいい。やりたいからやる。私のプロジェクトもその衝動でしかない。やりたいことをやるためのエネルギーは枯渇しないし、やればやるほどますます湧き上がる。きっと、「地域のために」という意識が前に出ると続かない。それは、札幌を拠点とする私の新しいプロジェクトにも、10年近く関わっている飛生アートコミュニティーにも当てはまることだと思った。地域を変える力を持つ尾道の活動の裏側に、自分と同じ、個人的で純粋な衝動があることを知り、「思うままにやりなさい」と背中を押されたような気がした二日間となった。
最後に、スケジュールを早めての急遽の訪問にも関わらず、あたたかく丁寧に対応して下さった尾道の皆様に、心より感謝申し上げます。

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なかた美術館でのミーティング

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<開催概要データ>
[企画名]尾道に学ぶ"開かれた場"のつくり方、続け方
[実施日]2014年8月16日(土)-17日(日)
[招聘者]光明寺會舘/AIR zine 編集室【広島県尾道市】
[訪問者]SAPPORO Far East Art Research Project【北海道札幌市】

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<タイムテーブル>
◎8月16日(土)
 12:00 新尾道駅到着
 12:30 AIR CAFÉでランチ/展覧会「彼方に吹く風−100年後に残したいモノ−」観覧(会場:光明寺會舘)
 13:30 空き屋再生プロジェクト、AIR視察/商店街のゲストハウス「あなごのねどこ」視察
 18:00 アーティストミーティング(会場:なかた美術館)
 20:30 懇親会(会場:いっとく)
 23:30 レジデンスルーム「本の家」に宿泊

◎8月17日(日)
 09:30 尾道駅周辺視察(Onomichi U2など ※自転車ごと宿泊可能なサイクリスト専用ホテルを主軸にした複合施設)
 10:30 展覧会「The Standstill of Paintingコレクションにみる"静かなもの"×BOOKS」観覧(会場:なかた美術館)
 11:30 イチリヅカシューズ・トウヤマ家お宅訪問
 12:00 AIR CAFÉでランチとかき氷
 14:00〜16:00 展覧会「花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~」観覧(会場:鞆の津ミュージアム)
 関連イベント蛭子能収×根本敬トークショー「蛭子能収解体新書」に参加

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<執筆者プロフィール>
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宇佐見祥子 USAMI Shoko
1982年宇和島生まれ北海道育ち。多摩美術大学卒業後、飛生アートコミュニティーに関わる。
2010年から北海道大学大学院で観光や地域づくりについて学ぶ。また同大学に勤務し、博物館展示や広報物のデザイン・制作に携わる。