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レポート 2014.08.25

2014交流支援プログラムレポート04「サイト・スペシフィック・アートを学びに行こう!」


AAFネットワーク団体のスタッフが各地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
今年も20プログラムが実施されます。
2014年、4番目のレポートは、原始感覚美術祭実行委員会(長野県大町市)を訪ねた、木津川アートプロジェクトチーム(京都府木津川市)の佐藤啓子さんによるレポートです。

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<レポート>

私たち「木津川アートプロジェクトチーム」は、「信濃の国 原始感覚美術祭実行委員会」のみなさんと交流させていただいた。私たちがそれを望んだ理由として、
 1)自分の住むまちの特徴を活かした芸術祭として共通の背景を感じたこと。
 2)ネットワーク会議の交流テーブルでお逢いしたスタッフの方々に興味を覚えたこと。
 3)「原始感覚」というネーミングに惹きつけられたこと。
木津川アートの舞台とは比べものにならない景観であることを承知の上で、それでもなお「サイト・スペシフィック・アートをもっと知りたい」と大きな期待をもって訪れた。
台風は歓迎すべき天候ではなかったが、「原始感覚」を体感しに来た私たちには思いの外、悪くなかった。

会場は、木崎湖畔を巡るコースに加えて、大町温泉郷と大町市街の3つに分かれる。初めの「海ノ口」エリアで、松田壮統氏の『2000万年へ沈むボートが運び出す未来』でガツーンとやられる。作品と空間が、見る人を日常から不思議な境界へと連れて行く。常に湖の景観が目の前に広がり、刻々と変わる空と湖の表情を私たちに見せつける。この環境の中で滞在制作をおこなう作家の喜びが、作品から伝わってくる。「場の持つ力」はすでにそこから始まっているのではないか。

キム・ヨンミン氏の『Sounds of the Forest』、『Sounds of the Lake』を鑑賞した時、それぞれが感じたものをどう処理しようかと、ある者は写真に納め、ある者は黙って湿地の草花を追いながら彷徨ったりした。「いいね」「おもしろいね」と思わず声に出してしまうのだが、発すれば発するほど陳腐な表現となってしまうことに気づく。湖・山・空を全身で感じることのできるすばらしいステージ、ここに目をつけた作家の感覚と、柵や看板で縛らなかった運営サイドの方針に、拍手を送った。

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『Sounds of the Lake』(キム・ヨンミン作)。湖と対話しているみたいだ

アートディレクター杉原信幸さんに、ケンヒラツカ氏『蝸牛夢』の鑑賞を強く薦められ、台風の雨が降り出した中、私たちは悩んだ末、千年の森へ向かった。たとえ雨が降っていなくても易しいコースに思えなかった。何度も滑りそうになり、枝を杖にして進んだ。板を渡しただけの橋など危険がそこかしこにあった。まさに原始感覚をフル回転させて進んだが、結局危険を感じて、作品を目の前にして諦めた。「安全性」について常に自問自答している私たちにとって衝撃的な経験だった。さらに「宿泊アート体験」では、電気のない宿で夜を過ごした。「原始感覚美術祭だし・・・・」。なるほど、全てがこのネーミングで納得してしまうのだった。

翌日は「信濃の国 原始感覚美術祭実行委員会」のみなさんとの交流が待っていた。スタッフが寝泊まりしている一軒家に訪れ、みなさんのお話しをお聞きした。

・ 展示場所の決定→「作家が自由に来て見つける。場所の必然性を作家が説得し、あとはコーディネーターが交渉する」
・ 危険度について→「危ないからこそ見る側もそこに意識を集中するものである。今までに事故やケガの補償をすることはなかった」
・ アートインレジデンス→「作家はいろんなことを巻き起こしてくれる。ほどよいトラブル。外部の人が入ってくることに対する抵抗もあったが、徐々に受け入れ体勢ができてきた」
・「食とアートの回廊」など、同じ時期、同じエリアでイベントが目白押し。数少ないスタッフが持って行かれることが悩みである。

答えてくださったみなさんは、作家として参加しながらスタッフとしても活躍されている。「人が人を呼び、場所が人を呼び・・・」という表現をされたが、活動を支えているものの中に、土地の持つ魅力が大きいことを感じた。地元出身であり、東京在住のスタッフは「故郷で行われているこういうフェスを応援したい。信濃の国はポテンシャルのあるまちとして都市を飛び越えて世界に発信できるものと思っている」と発言。自分のまちを愛する気持ち、やはりこれが彼らのエネルギーなのだと感じた。

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まかないパスタで歓迎してくださった「原始感覚美術祭実行委員会」のみなさんと

交流のあと『茂木健一郎トーク』に参加。鎮守の森の中に建つ大きな木造屋が会場だった。一面が開け放され、森の景色をバックに茂木さんがトークをされるのだが、何百年も生きてきた樹木が大雨に煙り神秘的な舞台を演出していた。雨で良かった、と思ったイベントは初めてである。そのことがより高揚感を誘った。茂木さんは、「原始感覚とは何ぞや」を、話題をあちこちに飛ばしながら展開。大いに私たちの思考する脳をかき混ぜてくれた。

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トーク中に雨降る森に向かって突然両手を広げる茂木健一郎さん

「サイト・スペイシフィックを学びにいこう!」
このテーマに駆け回った2日間。11月に控えた「木津川アート2014」のスタッフにとって、すばらしい生気の補充となった。まちと景観を誇りに思う気持ちが、根底に必ずあること、また自由な環境は、作家の気持ちも観る人の気持ちも自由に広げていくこと、このことを再確認できた。
最後に、会期中の忙しい合間に美味しいナポリタンを用意して出迎えてくださった「信濃の国 原始感覚美術祭実行委員会」のみなさんに、心より感謝したい。ありがとうございました。さらに、彼らと私たちを繋いでくれたAAFネットワークに感謝いたします。

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「宿泊アート体験」で意気投合、木津川アートのスタッフなると言ってくれたKさんと

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<開催概要データ>
[企画名]「サイト・スペシフィック・アートを学びに行こう!」
[実施日]2014年8月9日(土)10日(日)
[招聘者]原始感覚美術祭実行委員会【長野県大町市】
[訪問者]木津川アートプロジェクトチーム(福田・三谷・濱・佐藤)【京都府木津川市】

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<タイムテーブル>
◎2014年08月09日(土) 
 07:00 大町到着
 10:00 西丸震哉記念館にて オリエンテーリング
 10:30 作品鑑賞(木崎湖畔・大町市街・大町温泉郷)
 18:00 NAGI PROJECT LIVE
 22:00 「西丸震哉記念館」「まれびとの家」宿泊アート体験
◎2014年08月10日(日)
 10:00 作品鑑賞
 11:30「原始感覚美術祭実行委員会」と交流会           
 13:00 作品鑑賞
 14:00 茂木健一郎トーク 聴講
 16:00 作品鑑賞
 18:30 大町出発

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<執筆者プロフィール>
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佐藤啓子 SATO Keiko
木津川アート総合プロデューサー /ガーデンフォトグラファー、毎年イギリス庭園を巡る旅を重ね、そこから景観やまちづくりの大切さを知る。
栗東市景観審議会委員。著書「赤レンガ近代建築」(青幻舎)など。