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レポート 2014.07.25

2014交流支援プログラムレポート02「福祉とアートの横断を可能にする場の研究」


AAFネットワーク団体のスタッフが各地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
今年も20のプログラムが実施されます。
今年2番目のレポートは、NPO法人クリエイティブサポートレッツ(静岡県浜松市)を訪ねた、NPO法人ニコちゃんの会(福岡県福岡市)の池田万由未さんによるレポートです。

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<レポート>

「わくわく」がなにより印象的だった。

「わくわく」とは、NPO法人クリエイティブサポートレッツ(以下レッツ)の障がい福祉施設アルス・ノヴァで突発的に起こる、スタッフのやりたいことを利用者も仕事も関係なく、自分がとにかくやりたいようにやりきることを意味する。たとえば、利用者と一緒にバンドを組んで音楽をしているのだが、ヒートアップすると利用者を置いてスタッフひとりでドラムを叩きまくってしまう、とか、ある女の子の歌にかける情熱に心打たれたスタッフが、その利用者のために衣装もつくって舞台もつくってコンサートをするあからさまな贔屓(ひいき)だったり、、、こんなことはふつうの福祉事業所でやったら大ヒンシュクである。

今回私は、当団体NPO法人ニコちゃんの会(以下二コちゃん)と同じく、福祉サービスを行いながらこのAAFというアートの敷地に踏み込んでいるという共通の特徴をもつレッツに訪問した。福祉とアートの狭間のようで、同時にどちらともまったくの別次元かもしれないという近しい立ち位置の中で、なにか見えるものがあるのではないかと考えた。

冒頭の「わくわく」について、私はそれを聞いて、とにかくわくわくしてしまった。すごく嬉しかったのだ。なので、「わくわく」にこっそり混ざってみた。ある男の子の似顔絵を描いて壁に貼っている。その一画は利用者の描いた絵ではなくほとんどスタッフの描いた絵である。

nicochan1.JPG

なぜ嬉しかったのかというと、「わくわく」とはつまり、彼らが支援する側ではないということを意味している。支援する側・される側の逆転がそこには起きている。この逆転は、実際の福祉の現場にも往々にして起こっているが、福祉の枠にいる人はそれに気づいていないことが多い。「自分は支援される側」「自分は支援する側」という名札をつけてしまっているからである。支援される側に支援する側が見透かされていたり、見守られていたり、導かれていたりすることはよくあることだ。
また、「相手のため」ではないことができるのは、そこにお互いを認め合う関係性があるから成立する。「相手のため」は意志の発信の難しい人を、利用してしまったり巻き込んでしまったり暴力的になってしまうことがある。もちろんすべてではないし、社会的な地位確立のために必要な場合もある。
レッツのひとりの女の子を贔屓するスタッフが『僕と彼女の関係であって、社会に知ってほしいとかはない。"あなたと私"の関係でしかない。』と言っていた。レッツも二コちゃんもNPO法人であり、一見社会的な課題をどうにかしようとしている団体にみえるけど、本当はやるべきことはその言葉にすべて集約されているような気がしてしまった。

2日目、レッツのHPや冊子などでおなじみの彼らと触れ合うことができた。ずっとみたかった利用者とスタッフのバンド"南中野"のボーカルや、台車にテレビやラジオやとにかくなんでも乗せて散歩する"オガ台車"や、テープでグルグル巻きにされた木彫りの熊や、とにかくとても楽しくエネルギーが炸裂している時間だった。彼らと過ごす時間は、こんな楽しさとその裏にあるすごく敏感だからこその社会での生きにくさから、私に共振と憧れとを連れてくる。そして簡単に手を繋いだり絵を描いてくれたりするものだから、愛おしさももれなく付いてくる。

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二コちゃんが関わっているのは重度心身障がい児・者である。漢字がいっぱいでどんな人のことをいうのか実際に思い浮かぶ人はあまりいないのではないかと思う。障がいの部分で言うと、食事・排泄・呼吸などが自分の力では難しく機械を利用していたり、自分の意志で身体を動かせるところが極端に少なかったり、意志の発信を他者が受け取りにくかったりする人たちだ。レッツが関わっているのは知的・精神・発達障がい児・者である。どちらかというと後者は、アプローチは様々であるがアートの現場には関わりが多くなっているのではないかと思う。

二コちゃんの今回のAAFに参加した企画が決まるまでの経緯などをお話する機会をいただいたところ、『身体(障がい)の人と知的(障がい)の人では根本が違うと思う。身体(障がい)の人は失ったものを補うためのケアであり、福祉だ。知的(障がい)の人は、ないものを求めるより、そのままを明るい方向へ変化させることだと思っている。』という声があった。
なるほど、と思うと同時に、私が今回レッツで見た世界と、いつも私が見ている世界はとても近いものに感じた事実がある。というのも身体障がいのある人は、補うというよりその人の身体状態をそのまま見ていると、動かせる部分に対するエネルギーの集中がとにかくすごく、引き込まれてしまうのだ。それは知的障がいの人が何かに集中して身体を動かして色を塗ったりテープを貼ったりすることと同じなのだ。つまりは、そのままを見つめると、その向かう先やカタチは違ってもエネルギーの現われに惹かれてしまうということでは、まったく何も変わらないのである。言ってしまえば、障がいの種類どころか有無さえも関係なく、エネルギーの強さに惹かれているのだ。それは私にとって、アートに出逢ったときと何も変わらないことなのである。そしてそれらは人の価値観を大きく揺さぶることができるものだと考えている。

しかし、二コちゃんが関わっている人たちは命の危険と隣り合わせな場合も多いため、私なんかはついつい深刻にしてしまいがちである。深刻なものをどれだけ視点をずらして社会に伝えることができるのかというのは、自分にとっての課題である。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」という実践がレッツでは可能となっているように思われる。
なぜそのように多くのスタッフが、障がいのある人との時間を福祉とは違う視点で発見し、歪めることなくおもしろくサポートしているのか、それを探ることが今回の大きな目的でもあった。
それには福祉サービスを始める前の「たけし文化センター」という実践の場が影響していたという。その場は知的障がい者である"くぼたたけし"の居やすい場所=誰もが居れる場所という逆転の発想で、アーティストが社会に対して"仕掛け"をつくっていたことにある。レッツの代表・久保田氏はこう言っていた。
『福祉・障がいにまったく関係のない事業をやってみる。でもそれは絶対に障がい者の存在に繋がってくる。』

現在のレッツは、アーティストを絡める必要性への疑問が浮上しているという。それはすでに「ふかいことをおもしろく」見る土台ができ、感受し発信する人(=スタッフ)がそこに存在できているからだと思う。そこに至るまでには「たけし文化センター」「障がい福祉施設アルス・ノヴァ」「たけし文化センターINFO LOUNGE」など、いくつもの実践の積み重ねがあったことを思い知る。
計画的アプローチと実践的アプローチというものがある。前者は需要と供給を考え対象を定め計画的に進めていく。後者は需要がなくとも進めていくやり方だ。レッツは実践的アプローチで進んできたという。つまりそれは、きっと「わくわく」の積み重ねなのだろうと思う。
そう考えると今回のAAFに参加した二コちゃんの企画は需要などなく、まったくの私個人の「わくわく」である。アーティストや"仕掛け"ももちろん必要なことだが、結局は「わくわく」に従い、実践を重ねていくことで土台や人ができていく。自分の「わくわく」を突き進めることをしてもいいのだという大きな励ましをもらったような、とてもシンプルな、しかし何より大事なことを学びなおす2日間であったように思う。

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<開催概要データ>
[企画名]福祉とアートの横断を可能にする場の研究
[実施日] 2014年6月27日(金)〜28日(土)
[招聘者]夏目はるな(NPO法人 クリエイティブサポートレッツ)【静岡県浜松市】
[訪問者]池田万由未(NPO法人 ニコちゃんの会)【福岡県福岡市】

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<タイムテーブル>
◎2014年6月27日(金)
 19:00~22:00 ニコちゃんの活動・レッツの歩みについて意見交換@アルス・ノヴァ
 22:00~24:00 げんこつハンバーグで嬉しくなる懇親会@「さわやか」
◎2014年6月28日(土)
 10:00~11:00 アルス・ノヴァ見学
 11:30~13:00 のヴぁ公民館見学
 13:00~14:00 レッツ久保田さん・水越さん・アートNPOリンク樋口さんと昼食
 14:00~16:00 ニコちゃんの会の活動についてトーク・意見交換@アルス・ノヴァ

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<執筆者プロフィール>
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池田万由未 IKEDA Mayumi
1985年福岡生まれ。福岡教育大学で美術を学んだあと社会を知るため、建築会社に就職。ひょんなことから介護事業部に部署異動。それから4年、認知症のじじばばにきれいもきたないもまるっと見せてもらって、禿げ頭にキスしたいと思ったことから、福祉にはまる。美術と福祉の共通項を見出し、繋ぐ術を探るべく、障がい福祉に転職を決意。色々みてまわって思ってもみなかった重度心身障がい児・者と関わるNPO法人ニコちゃんの会に就職。衝撃の毎日であっというまに1年半。