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コラム 2014.06.19

#36 工藤桂子(NPO法人 グリーバレー)


四国の山間の町、徳島県神山町で1999年にスタートした神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)は今年で16年目を迎える芸術家滞在制作事業である。
これまで19ヵ国から54名のアーティストが神山町を訪れ、制作・発表を行ってきた。
さまざまなバックグラウンドを持って神山町に来るアーティスト達がここでアート作品を制作する過程で生まれる交流を通じ、受け入れる神山町住人とお互いに新しい発見や新しい価値観を見出だすことを目的として続けられてきた。神山町住民主導でスタートしたこのプログラムは、それぞれがお互いに無理のない関わりをすることで緩やかに続けられ、16年の歳月を迎えた。
その間メンバーの入れ替わりは多少あるものの、今も中心メンバーとして活動している人たちの大半は立ち上げ当初から関わっているおっちゃん達だ。強い思い、強い願いを持ちスタートさせたプログラムだけに活動に対する熱意は高く、7年前に外から参加した私から見ると、その行動力に驚かされるばかりだ。

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夏の終わり、近くの食堂にアーティストを連れてあいさつに行く。
「今日はどしたん?あー、もうレジデンスの時期やなー。よろしくねー。」
なんとも肩の力が抜けた感じのやりとりがそこにはある。まだ蒸し暑さの残る町のあちこちで、そんな光景があり、レジデンスがスタートする。
ここに住む人達にとって、お盆が終わるこの時期にスタートするKAIRは、日ごろ町の中で目にするお遍路さんと同じように日常の一風景となっていることに気づく。
 
外国人アーティストがアトリエで制作している風景を、自宅の窓から眺めていたおばあちゃん。
ある日、私が来たのを見かけて話しかけてきた。
「毎日、毎日、暑いのに絵を描いてるんが見えとったんよ。時々外に出て、陰で涼んでなー。何を描きよんかわからんかったけど、大変やなー思って見てたんよ。毎日少しずつ出来上がっていくんが見えてな。おもしろかったわよ。」
 
毎年展覧会場にもなっている劇場「寄井座」の入口近くに住んでいるおばちゃんは、2007年にその場所を使い始めたときから、アーティストのサポートをしている名キュレーターだ。
「私は、作家さんが最初に来て掃除をしたところからずーと見とる。最初から最後までこんなに見とるんは本人と私だけじゃ。」
と嬉しそうに話す。

また違う場所では、80歳をとうに越したおじいちゃん。
毎日、宿舎の隣で畑仕事や植木の世話をしているおじいちゃんの姿をアーティストが作品の中に取り入れた。そのスケッチを受け取ったおじいちゃんは、むかし大工だった腕をふるい、自作の額で壁に飾っている。
そのアーティストがおじいちゃんとの制作を通した交流を興奮気味に話す。
「今日、ちょうど外でおじいちゃんに会ったから、身振り手振りでアトリエに誘って見てもらったんだ。言葉は通じていないだろうけど、長い間アトリエで制作途中の絵を見てくれていたんだよ。」
そして、レジデンス終了後におじいちゃんから聞く、
「ここにおった外国人さんはずっと絵を描いてて、その絵をくれたんじゃ。それはそれは大きい絵でなー。よう描っきょったわ。作業場にも見に行ったんじゃ。」
こんな心躍るような報告でKAIRはきっと実を結ぶ。
 
ここに来たアーティスト達がするりするりと神山の生活に入っていく。
毎年そんな小さなエピソードがぽつりぽつりと生まれてくる。
それはアーティストに触れたことで起こる小さな発見と彩りだ。
もちろん事業に好意的な人ばかりではないが、最終的にはそんなことも人と人との関係性になる。
入道雲がすっかり天高く澄む青空になった頃、このような小さな出来事の重なりがゆっくりとした変化をもたらしてゆく。
この町でのKAIR事業は、今までもこれからも長い時間の中で、アーティストが少しずつ持ち寄る糸と、毎日を生きる住民の糸とを紡いでゆく事業なのだと確信している。


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工藤桂子  Keiko Kudo
徳島出身。2007年より、徳島県神山町NPO法人グリーバレー事務局にて、勤務。グリーンバレーの指定管理受託している施設で働くかたわら、神山アーティスト・イン・レジデンス事業担当として、レジデンス事業や関連事業の企画コーディネート、サポートをしている。2010年より神山アーティスト・イン・レジデンス実行委員会としてAAFに参加。