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コラム 2014.03.20

#33 長岡野亜(映像作家)


「バン、ババン!」
滋賀県近江八幡市島町にある「島コミュニティセンター」の一室から、爆竹のような轟音が鳴り響く。竹・藁・菜種がらを編み合わせて作られた高さ7mの「ほんがら松明(たいまつ)」が燃えて弾ける音である。この時、その部屋で行われていたのは、島町が舞台となった農村再生ドキュメンタリー映画『ほんがら』の上映会。2008年3月に島小学校体育館で完成披露上映をして以来の地元上映である。この映画を撮影・監督した私は、上映会にゲストとして呼ばれ、観客と一緒に鑑賞していた。冒頭の轟音は、松明が炎に包まれる映画のクライマックスシーンである。

ほんがら松明.jpg
上映後、私は、この映画をプロデュースした「ひょうたんからKO-MA」代表で島町在住の中川豊一氏とともに会場の前に立ち、観客の皆さんから質問を受けた。ある学生の「映画ができる前とできた後で島町は変わりましたか?」という質問に、中川氏は目を輝かせて「島町は、この映画が大きな起爆剤となって、すごく変わりました」と語り始めた。「映画でもあったように、それまでは祭りに義務感だけで参加していた地元の若者たちが、ほんがら松明づくりを長老たちから教えてもらったりして、世代間コミュニケーションも生まれてきた。とにかく保守的で新しいことをやりにくい地域だったのが、ほんがら松明が復活してからは『自分たちで地域を変えていこう』という機運が高まり、新しい取り組みも次々と動き出しているんです。」

境内に並ぶ松明(たいまつ).JPG
中川氏はさらに続けた。「例えば、放置されていた棚田で、絶滅危惧種の『ホトケドジョウ』が発見されたことをきっかけに、ホトケドジョウが住みやすい環境を維持するために住民総出で棚田に手を入れて数年がかりで再生し、『棚田米』を作ってみんなで食べたりしながら、地元の良さをみんなで再発見する取り組みをしています。最近は、女性部が主体となって、島町で昔から作られていた『みずくぐり』という珍しい品種の大豆で味噌作りをしたり、住民を対象とした『収穫祭』も行われたりと、少しずつですが活気づいてきていると思います。今年は石窯を作って、米粉でピザを焼く予定です。」

saigen.JPG
老人たちがほんがら松明を約50年ぶりに復活させて以来、ほんがら松明は毎年作られ続けている。今年4月の春祭りでは、あれから8回目となるほんがら松明が奉納される。今では、その製法は若い世代にすっかり引き継がれ、昨年からは、1本では飽きたらず2本のほんがら松明が作られるようにさえなっている。いまや、「ほんがら」は、島町住民自身が育んだ文化としてしっかり定着した感がある。「農村再生ドキュメンタリー映画」をつくりあげたことが、確かにまちの活性化の一助になったという喜びを、今改めて実感している。

映画『ほんがら』の影響は、島町の中だけに留まらない。これまで全国各地で上映する機会に恵まれ、おかげさまで、今でも時折、自主上映の依頼をいただく。昨年の島町の春祭でも、九州で映画『ほんがら』を観た熊本県在住の青年が「本物のほんがら松明を見たい」と遠路はるばる島町を訪れてくださり、老人たちに歓迎された。青年はその後、地元熊本で映画『ほんがら』の上映会を実現させ、「仲間と一緒にまた本物のほんがら松明を見に行きたい」と私に伝えてきてくれた。映画の完成から7年を経てもなお、このようなエピソードが伝わってくることは何より嬉しい。

滋賀・近江八幡では、「近江八幡映像プロジェクト」と称して、AAFの皆さんにご支援いただきながら、この『ほんがら』を皮切りに、地元の子供達と一緒に映画づくりに挑んだワークショップ作品『タイムカプセル・アドベンチャー』、市内のお年寄りの人生から映画を通じて地域・文化・人・歴史を紡ぎ出した市民制作映画『結い魂』と、計3本の映画づくりに関わってきた。いわば、"近江八幡コミュニティー映画3部作"である。そのことが、滋賀県や、宮崎県、沖縄県といった地域で映画をつくりたいという人たちとの繋がりへと続いていった。

もっと滋賀の魅力を掘り下げたい、いろんな映画と出会いたい、という思いから、私は今年、滋賀県内の数か所で、滋賀で生まれた映画の上映会と集う場をつくる活動をスタートさせた。これから出会うだろう映画・人・地域との新たな出会いを想像しながらワクワクしている。その出会いから、また新しい映画が生まれたらオモシロイと思う。

写真1 ほんがら松明
写真2 境内に並ぶ松明(たいまつ)
写真3 再現された棚田のはさかけ(奥)とみずくぐり(手前)の風景

【お知らせ】
2011年秋に3年半という歳月をかけて完成した市民制作映画『結い魂』は、上映活動を継続しながら、今春にはいよいよDVD&ブルーレイが完成します!!  映画『ほんがら』のDVDも好評につき増版して販売継続中です。

【関連URL】
●近江八幡映像プロジェクト
●島町ブログ!~箱庭の里 奥嶋の集い~


長岡野亜2.JPGのサムネイル画像
長岡野亜 Nagaoka Noa
大学時代から写真を撮りはじめアジア、アラスカなど世界を巡る。2001年、映画監督・原一男主宰の「CINEMA塾」に参加し、ドキュメンタリー映画を作りはじめる。2006年から、近江八幡市の地域プロデューサー集団「ひょうたんからKO-MA」と共に「近江八幡映像プロジェクト」を行い、AAFにも参加。2008年に完成した映画『ほんがら』を監督し、第14回平和・協同ジャーナリスト基金・新人賞などを受賞。2007年、「子ども映画づくりワークショップ2007 in 近江八幡」開催。2008年からは市民制作映画『結い魂(ゆいごん)』を監督し2011年秋完成。現在、上映活動を継続しながら、壮大なる「琵琶湖」をテーマにした映画づくりを構想中。