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コラム 2014.02.20

#32 今川和佳子(酔っ払いに愛を実行委員会/八戸ポータルミュージアムはっち)


「酔っ払いに愛を」。2008年秋、ある人の勧めでアサヒ・アート・フェスティバルに応募してみることになった。当時八戸市は、市が直営する公共施設「はっち」開館に向け、市民力が最大限に発揮されるソフトづくりに関心が高まっている時期で、私も八戸に暮らす一市民として、まちづくりのワークショップやディスカッションに参加していた。そしてこのような時期に、「市民・地域・未来」をうたうアサヒ・アート・フェスティバルに参加できたのは幸運なことだった。

八戸には「横丁」と呼ばれる飲み屋街がある。この「横丁」が、私たちがAAFに参加しているプログラムの舞台だ。八戸の横丁は全国的にも珍しい、古くは江戸時代から残る小路が連なるエリアで、昭和の最盛期には、徒歩10分圏内に大小8つもの劇場がひしめきあっていた。同時に人々の生活の場であって、この横丁で生まれ育った私の母は、小路から小路へ、身をひるがえすようにしてかくれんぼや鬼ごっこで遊んでいたという。劇場へ足を運ぶ人々、そして海の街八戸で働く男たちのお腹を満たすために、たくさんの飲食店が軒を連ねるようになったのが、今の横丁の始まりだ。

私たちのプロジェクト「酔っ払いに愛を~横丁オンリーユーシアター~」は、劇場があった頃の、豊潤な時間の流れと、街と人とのコミュニケーションをもう一度可視化したいという想いから始まっている。マッチ箱のような横丁の小さなお店の中や路地を劇場に見立て、ダンスや演劇などのパフォーミングアーツの公演を、同時多発的に行うものである。観客は、出演者の汗が飛んでくるほどの至近距離で、パフォーマンスを目撃する。

公演にこぎつけるまで、何百何千という地域の方々との対話がある。横丁のお店の方、スペースを提供してくださるオーナーさん、周辺の商店街の方々。そのお一人お一人のお話を聞いているうちに、私は横丁の底なしの魅力にはまっていく。まるで生き物のように日々変化していく街を相手に、皆が「わからなさ」や「不安」を携え、それでも公演の実現に向けて知恵を出し合う面白さ。そして、気鋭のダンサー・斉藤栄治さんはじめ、この5年間で約30組のアーティストが横丁に入り込み、それぞれが紡いできたコミュニケーション(飲みにケーションも含む)は、横丁の人々との距離をグッと近づける大きな力となった。また冒頭で触れた「はっち」は、2011年に開館し、このプロジェクトを支える拠点となった。レジデンス施設を備え、アーティストの長期滞在と作品づくり、また市民との交流を可能にした。

「また今年も『酔っ払い』の時期が来たね、今年は誰が来るの?」。
私たちの行きつけの横丁のお店のママは、毎年夏が来ると、そういってニッコリ笑ってくれる。その笑顔にどれだけ励まされてきたことだろう。「酔っ払いに愛を」はまだまだ始まったばかりだ。横丁で暮らす人、そこに集う人、お店の人。それぞれの本質を、アートを通じて引き出し可視化する。もっともっと横丁の日常とシンクロする。そんな日が来るまで、私の横丁巡りは終わることはない。
 

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今川和佳子 Wakako Imagawa
酔っ払いに愛を実行委員会/八戸ポータルミュージアムはっち
八戸市出身。2008年より、八戸ポータルミュージアム「はっち」コーディネーターとして、主にアーティスト・イン・レジデンス事業を担当。アーティストや 周辺の商店街などの地域の人々と関わりながら、建物を飛び出した活動を実践してきた。2014年春からは、新たなコミュニティとの交わりの可能性を求めて、合同会社[proa.LLC]を立ち上げ、企業や商店街、地域を越えたプロジェクトとタイアップした活動をスタートする。"proa"とは「小さな帆船」の意。