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コラム 2013.10.20

#28 鈴木一郎太


私たちの周り、または自分の中にも、割り切れないものが数多くある。それらを突き詰め、既存の言葉に置き換え、カテゴリー分けし、"明言"することも時には必要だと思う。しかし昨今の社会が"わかりやすさ"にこだわる風潮が強いからこそ、そんな「名付けえぬもの」をそのまま不明瞭なものとして、そこに可能性を探る場所があってもいいのではないだろうか?

NPO法人クリエイティブサポートレッツは、障害に関わる様々な事業を2000年から展開してきた。その過程から"個人"に着目した文化事業「たけし文化センター」が構想され(2008)、障害福祉施設の運営(2010~)と並行して実践してきた。
「名付けえぬ」状況や人や物事は数多く社会にあるが、改めて振り返ると、個人が「名付けえぬもの」の宝庫だから、たけし文化センターのコンセプトが生まれたように感じる。人が熱意を注ぐもの、こだわるもの、気にしていることといった「名付けえぬもの」は、その人独自の感性がまっすぐに向けられる先であり、暮らしに充足をもたらす。それを障害者支援の中で応用し実践しているのが、レッツの運営するアルス・ノヴァという障害福祉施設である。
それらは"個人的"であるために、"他者の排除"や"枠の狭さ"が当たり前について回る。しかし、だからこそ反面教師の様に、広い社会や、様々な他者の存在に気づくきっかけとなりうる。そうした多様性への気付きと許容性を高めるという道筋が、レッツがたけし文化センター事業を行ってきた理由のひとつだった。

AAFでは障害に関わる事業での参加が多かったが、たけし文化センター事業として、"個人"という観点で様々な人と交わって実践を続ける中で、人を通して地域が見えてくる感覚があった。それは個人がその地域に根付いて暮らす生活人であることが大きな理由だと思う。生活の積み重なり、人間関係、産業構造、地域の歴史、気候風土といった場所や時代独自の要素を、人が体現していた。人の暮らしがあって社会がある、という至極当たり前のことに、個人へ目を向け続けたことで改めて実感を持った。
個人に属する「名付けえぬもの」は、地域の影響を受けながら暮らしの中で悩み、考えている状態の現れだと言える。それらの相互の交わりや試行錯誤を鼓舞することから、地域文化の創出や既存の物事を展開させる種となりうる可能性を紡ぐ、それをアートプロジェクトとしてレッツは繰り返してきた。

 "ある"ものを"ある"と公平に見るアート特有の視線は、「名付けえぬもの」を不容易に既存の型にあてはめることなく、存在を認め、社会に"ある"状態にする。さらに自由な試行錯誤を鼓舞することで、アートプロジェクトは様々な分野において、イノベーションの種の発生を導く方法のひとつとして、期待をかけられるのだと思う。

アートプロジェクトが、我々の暮らしに公平でやさしい視線を向け、既存と擦り合せながらコトを起こし、生活を感化し、社会にアプローチするのであれば、そのアートには、まず世の中の「あらゆる名付けえぬものに寄り添う味方」となり、可能性を考える場所であってほしい。それは社会的弱者やマイノリティの人達の周辺に限られたことでなく、多様なフィールドでの方法のひとつとして必要なものだと思っている。


鈴木一郎太 SUZUKI Ichirota
Byam Shaw at Central St. Martin's College of Art & Design MA FineArt修了。NPO法人クリエイティブサポートレッツのスタッフとして、2007年から2013年まで業務全般に関わる。深澤孝史と共に「たけし文化センター」コンセプト起草。「障害福祉施設アルス・ノヴァ」、「たけし文化センターINFO LOUNGE」(情報センター)をディレクションした他、様々な分野や人と連携し「たけし文化センター」事業を進めた。
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