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コラム 2013.09.20

#27 茂木綾子(ノマド村)


私たちが暮らす兵庫県淡路市長澤は、棚田の広がる山合いにあり、集落内には古い寺や神社が点在し、絵に描いたような清らかな里山。その長澤で百年続いた廃校へ、私たちドイツ人と日本人のアーティスト夫婦と娘二人の家族が移り住んだ。
風に吹かれ飛んできた種がこの地に芽吹き、温かな風土に見守られながら成長するように、今では少し枝を伸ばし根も張り始めた。校舍の一部をアート作品のように自由に改装し、営業を始めたカフェ「ノマド村」には、毎週末たくさんの人々が訪れる。

村のおじいさんやおばあさんは、今では私たちの事をノマドさんと呼ぶ。
「ノマドさん、ところでノマドってなんちゅう意味や?」「ノマドは遊牧民とか移動民とかいう意味ですよ。」と答えると、「そんならまたすぐどっか行ってまうのか?」と心配げに聞かれる。「いやいや、当分はここにいさせてもらいますよ。追い出されない限りはね。」と言うように、私たちはここでの暮らしがとても気に入っている。毎日車で山を登り降りし、同じ風景を何千回と眺めていても飽きることがない。緑の景色を抜け坂を下ると、目に飛び込む海や空の色は美しく、つくづく幸せな暮らしだと思う。

淡路島では米や野菜、肉や魚、牛乳や卵などたくさんの食品を生産していて、食の自給率180%を超える。夏や冬の季節も厳しくなく、人も優しく明るい。最近は村の人たちとも親しくなり、村の活性化の会合にも呼ばれるようになった。
村の課題といえば、問題はやはり少子高齢化。老人ばかりのこの集落では、神事の巫女舞いをする小学生も来年にはいなくなり、長年続いてきた春の子供神輿もすでに大人がやっている。そんな中、昨年から私たちに続き若い家族が急にこの長澤に増え始めた。福島から移住してきた4人家族。西宮から移住した30代の農業を志す夫婦。東京から移住した30代の3人家族。斜め向かいの古民家には、シェアハウスとして子供連れの3組の家族が移住し、一年であっという間に若者と子供の数が増えた。

昨年秋から、移住者仲間が集まり「くじら農園」という共同農園を始め、自然農で麦と米を作り始めた。ノマド村では「長澤はっぱ新聞」を発行し、村のおもしろい人や移住者の記事、行事の紹介、今日の晩ごはんや自然について等、様々な情報を載せ、村の全世帯と近隣の施設や飲食店等で配布している。
また気の合う主婦たちが中心となり「長澤はらっぱマーケット」を年2回開催。手作り雑貨や料理やお菓子、地元の野菜等を販売し、ライブやワークショップもあり、評判も上々だ。最近はカフェやノマド村のイベントの他、自然な流れの中で地域に必要とされ、人々の出会いから生まれ楽しめる小さな事、できる事、したい事を少しずつ拡げている。

淡路島に移住し徐々に感じてきた事は、田舎でいきなり本格的なアートを仕掛けようとしても、正直なかなか難しいという事。とはいえ、県の予算で「五斗長(ごっさ)ウォーキングミュージアム」というアート事業をNPO淡路島アートセンターと共に、この3年間展開している。五斗長という地域の人たちからアートに対する理解を得られるよう、ゆっくりとリサーチする事から始め、準備を進めてきたが、予算規模も小さく、自治体の理解と協力を得て本格的なアートを根付かせるには、長い長い働きかけが必要なことを実感し、途方に暮れそうになることもある。
一方、アート活動の表現としては、長年積み重ねて来た写真の制作や映像作品のプロジェクトがあり、その制作にしっかりと焦点を合わせ、エネルギーを傾ける事が、今とても大切な事でもある。

ノマド村の活動の中心にあった週末カフェは、ソーシャルアートのプロジェクトとして始め、がむしゃらにやっている間にいつしか本格的なカフェになり、徐々にアート制作との両立が難しくなってきたため、来年のカフェの存続を再検討している。ノマド村も4年が経ち、次なるステップに入りつつあるようだ。本来の私たちの仕事はやはりアート活動。その仕事を前面に出し、田舎でアーティストとして暮らすアンビバレントさを体現しながら、これからも日々道を切り開いていこうと思う。

この10月に淡路島に移住して初の写真展「NOMADIC LESSON」を開催。ギャラリーMisako & rosenでの3回の写真展から集めた作品を、島内4カ所の魅力ある空間で展示する。 写真集「travelling tree」も各店舗にて販売。


茂木綾子 MOGI Ayako
1969年、北海道生まれ。武蔵野美術短期大学、東京芸術大学デザイン科中退。
写真、映像を主なメディアとして制作活動を行っている。97年から ミュンヘンに住んだ後、スイスにてアーティスト・イン・レジデンス型のプロジェクト、ラボラトワー・ヴィラージュ・ノマドを立ち上げ企画運営を担当。2009年に淡路島 に家族で移住し、廃校を拠点として地域の人びとや国内外からの訪問者たちとともに、この「場」 を作り上げるアートプロジェクト「ノマド村」を展開中。現在、ヴェルナー・ペンツエルと協同の映像作品3本を手がける他、写真集「travelling tree」が赤々舍より出版される。
茂木綾子写真展「NOMADIC LESSON
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