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レポート 2013.09.04

2013交流支援プログラムレポート04 「小林×小林」


これまでにAAFに参加してきたネットワーク団体のスタッフが、それぞれの地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
AAF2013、今年4番目のレポートは、「余白工事の会」(浜松市、東京など)を招聘した「河原町文化開発研究所」(熊本市)の小林ゆか里さんのレポートです。

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<レポート>
3月9日に行われたAAFネットワーク会議のプレゼンテーションに参加し、私はひとつの団体に興味を惹かれた。「余白工事の会」である。余白工事とは、自分の価値観でモノや空間、言葉などに考える余地、または余白を意味付け生み出すこと。彼らの概念は新鮮で、なによりも直感的に面白いと感じた。私の所属する「河原町文化開発研究所」と違い、地域をコミュニティとしないところ、同世代である20代の若者が運営しているところも魅力的に映った。
 今回企画した「小林×小林」では「余白工事の会」で活動している"小林橘花"をはじめとするメンバー3名を"小林ゆか里"が所属している河原町文化開発研究所の活動地域である熊本へ迎え、河原町アートの日に参加していただく。「余白工事の会」が持つ視点で河原町を感じてもらうこと、そして交流を深めることで新たな熊本の価値観を得られると考えた。それに加え、新しいアートシーンが生まれている天草を一緒に探訪するプログラムだ。

1日目 熊本市街地、阿蘇観光

河原町旧繊維問屋街は、熊本駅から市内中心地であるアーケード街の間、市電通り沿いにある。昭和30年代の古い建物が残っている河原町の風景は、熊本市中心地の余白と言えるのではないだろうか。
 お昼頃「余白工事の会」の3人が集まり、河原町からアーケード街まで市電に揺られる。お昼に熊本名物「太平燕」を食べ、熊本市現代美術館へ。この日行われていた熊本出身の画家コーダヨーコ展を楽しんでいただいた後、車で阿蘇へと向かう。移動中の車内は同世代のみということで、様々な話をした。地域と都会の違い、個人の活動、これからの団体の活動について、そして恋愛の話まで。阿蘇では草千里の大自然と露天風呂で熊本の観光資源を楽しんでいただき、熊本のことを知っていただいた。

2日目 河原町アートの日、交流会

毎月第2日曜日に河原町で行われている「河原町アートの日」は、今年で開催10年目である。オリジナルであれば形態を問わず参加できるアートの蚤の市。この日ばかりは普段の閑散とした河原町に活気が溢れる。「余白工事の会」の皆さんには、河原町の会場の一部を使って余白散歩と余白ゲームを開催してもらった。

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◎持ち寄りパーティ
みんなで持ち寄りパーティという名目で河原町アートの日に来ている人をゆるく会場に集める。それぞれ談笑。このときに余白メンバーはゆるく余白について説明。

◎余白散歩
集まったメンバーとなんとなく時間がきたということで、あらかじめ用意されていたキーワードが書いてある紙を選び散歩に出発。
河原町近辺を10名程度で特に目的もなく、行き当たりばったりで1時間程度散歩。主に寺や骨董屋や洗馬橋を歩いた。
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◎余白ゲーム
河原町に戻り、余白人生ゲーム開始。内容は各々が時間を遡り、スタートからゴールまで記憶に残ったことを紙に書き出す。書き終えたら付箋を時系列で並べすごろく風にしてゲームスタート。各々の感想や感情、記憶を共有する作業。ゴールした人が自分の散歩をまとめてプレゼンする。この最後の作業は余白工事の会でもしたことがなかったらしく、実験的なものだった。
参加者からは「熊本の地域性が余白ゲームに反映されていて良かった」「何気ない散歩を皆で共有し、交流することで皆の視点が楽しめる」「同じ時間で違う場所の出来事を共有できた」などの意見が出た。今回の散歩や余白ゲームは、いろんな地域での開催や規模の拡大など可能性を感じた。
河原町アートの日終了後、余白ネットワークメンバーと河原町文化開発研究所の交流会を行った。河原町文化開発研究所は、造形作家をはじめとするアーティストや、アートの日を支援する人で構成されている任意団体である。同じAAF参加団体である余白ネットワークの活動やメンバーの話を、全体ミーティングに参加できなかった所員が吸収でき、また各現場の意見交換ができた良い場だった。

3日目 天草 丸尾焼、在郷美術館探訪

朝7時に集合し、天草出身の画家マツモトマサヒデの案内のもと、河原町を出発。途中でリップルランドに寄り道。天草の海を楽しむ。橋を五つ渡り、新しいアートイベントが開催された天草宝島国際交流会館ポルトおよび周辺の商店街に到着。この商店街ではイベント時、シャッターが閉まっている店舗を開けて作品展示やパフォーマンスを行えるようにしたそうだ。そのことによって若者が集まる町への変革を行っている。商店街を歩いた後、イベントを開催した丸尾焼をたずねる。丸尾焼は1865年に天草で創業した窯元であり、丸尾とは良い粘土が取れた土地の名前だそう。重たい扉を開けると綺麗な販売ブース。並んだ陶磁器を見て歩き、コーヒーを飲んで器を体感し、窯 元も見せて頂いた。ものづくりや全国とのネットワーク、商店街の活性化につながるイベントに関して、丸尾焼は一歩進んでいるように思えた。
その後、在郷美術館へ。天草の田んぼの真ん中にある一軒家、が在郷美術館だった。しかも鍵が開いてるのに誰もいない。中に入るとなんとなくホワイトキューブだが、ギャラリーと思われる場所には子供用のビニールプール。皆で戸惑っていると、山の上からカトウ笑平が何かを抱えながら「おう」とやってきた。訪れることを伝えていたのに、ゆるすぎる。カトウ笑平の現代芸術家としてのキャラクターが凝縮されていた。それから在郷美術館での展示、天草での生活などを聞く。在郷美術館は2006年に開館し、展示をするだけでなく館長カトウ笑平の生活そのものや日常から、人間の潜在的な美意識を探る試みをしている空間とのこと。新しい概念をもらった。
カトウ笑平との話の中で「天草探訪ならドル メン行ったの?」との言葉が。天草で訪れた場所すべてで名前が出たドルメン。「ドルメンとは何ですか?」と聞いても、皆「ドルメンはドルメンだよ」と答える。スケジュール的に難しいのでコースに含まれなかったドルメン。しかし急げば寄れるかもしれない。という事で急遽ドルメンに行くことに。
ドルメンは山中、車で入れない場所にある。皆で整備されていない石段を、草を払いながら進む。もう熱中症になっちゃうよ、というところでドルメンを発見。青々とした木々の中、大きな複数の岩の上 に綺麗に乗った一枚岩。ドルメンは支石墓のことで、どうやって出来たか、何のために作られたか謎の巨石墓で、世界中にあるようだ。中に入ってみると意外と広い。これがドルメンか。そしドルメンの上へ。大きな岩の上から見る天草の風景。神々しかった。
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そんなドルメン天草を堪能し、河原町へ戻る。マツモトマサヒデにお礼を言い、空港へ。東京へ旅立つ飛行機を大袈裟に見送った。
残ったメンバーでスーパー銭湯に行き、裸のまま今回の交流の反省会をする。ここでは、1日目とは違う話ができた。交流支援プログラムの意義とは何か。AAFを通じて何を得ることができるのか。密に話すことができた。

4日目 余白

「余白工事の会」の小林橘花は16日のお昼まで時間があるとのことだったので、私小林とで「小林×小林」の余白として平日の閑散とした河原町に行き、その後熊本ラーメンを食べた。

余白ネットワークは、意味やモノで溢れている秋葉原という場所に余白を工事しようと始まった。熊本、特に河原町はすかすかしているように感じたと小林橘花。すかすかした感じは余白というより空白で、その空白を余白にするには無理に塗り潰さないことが大事なのでは、と意見をもらった。
河原町や研究所所員については、アートの日やその他でも、戯れているときにはリズミカルでありながら、段取りなど通常効率が重視される事柄にはカツカツせずむしろのんびりとしているように見えたという。そこが余白っぽい、と言われた。

河原町アートの日での余白ゲームで感じたのは、良い意味での異物感。なんとなく集まり、ゆったり話して、まったり散歩スタート。気づいた人はフラッと余白に入ってくる。ただの散歩なのに、異質な人がいるはずなのに、自然と余白散歩に人が集まっている。そこから各々の意識の共有。今までの河原町とは違う体験ができた。初対面だとどこか気負う部分があるはずだが、余白ネットワークのメンバーにはその壁がなかった。自然すぎてその時は気づかなかったが、そこに余白のすごさを感じた。
個人的に色んな場所で行っている余白ゲームを側から見たり参加してみたいと思った。

今回私はこの交流支援プログラムを介することで初めて天草のアートシーンに触れた。阿蘇観光や天草では、余白を感じることができなかったとの意見も出たが、私は天草を余白ネットワークと歩くことで、別の視点を持つことができた。熊本の、特に河原町はゆるいところが魅力だと感じていたが、天草でも似た空気を感じた。余白ネットワークの謳う「キーワードで繋がる」ことが、熊本では「空気」として自然にできている気がした。そして河原町の持つゆるい雰囲気が好きな人は、「余白」という概念が理解できるのではないだろうか。

特定の地域での活動は、良い面もあれば悪い面もあると思う。河原町アートの日に対して、閉塞感を感じる人も少なくない。河原町アートの日の参加者も、アーティストとして外へ外へと活動の幅を広げるべきだと思う。河原町文化開発研究所は今回のAAFで、アートの日巡回展を全国へ持っていく企画を出している。また、7月27・28日には熊本市動植物園でのアートフェスを開催した。特定の場所を介さずに繋がるコミュニケーションを今後どのように自分達のものにしていくかが課題だと思う。モノだけを運ぶのではなく、人との繋がりを大事にしていきたい。
「余白工事の会」が行っている「余白ネットワーク」の特性を、河原町文化開発研究所が知ることで、特定の地域だけではなく、 開けた視点を持つことができるのではないだろうか。今回の交流支援プログラムは未熟な私の計画で反省点はたくさんあるが、今後に繋がる良いきっかけになったと思う。若い世代もそうだが、世代も地域も超えた繋がりをこれからもAAFには支援してもらいたい。ありがとうございました。

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<開催概要データ>
[企画名]小林×小林
[実施日]2013年7月13日(土)~15日(月)
[招聘者]小林ゆか里、佐藤健二、尾方宏士、ほか所員(河原町文化開発研究所、熊本)
[訪問者]小林橘花、冠那菜奈、内田壮哉(余白ネットワーク、浜松、東京)

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<タイムテーブル>
◎2013年7月13日(土)
 13:00~ 河原町に集合、中心街にて昼食
 17:00~ 阿蘇散策
◎2013年7月14日(日)
 11:00~ 河原町アートの日開始
 13:00~ 余白ネットワークイベント
 ~17:00 河原町アートの日終了
 19:00~ 交流会
◎2013年7月15日(月)
 07:00~16:00 天草探索

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<執筆者プロフィール>
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小林ゆか里(こばやし・ゆかり)※写真左
1988年熊本生まれ、熊本育ち。 2009年、大学在学中「小林どろり」にエアギターとオカリナで参加。調子に乗る。2011年頃より演劇ユニット雨傘屋に役者として参加。調子に乗る。2012年8月、熊本市河原町に古着屋なのか何なのか分からない店「81/2ハッカニブンノイチ」を開店。同時に河原町文化開発研究所に参加。良く分からないけど自分の勘に正直に、どこそこ飛び回って活動中。