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レポート 2013.09.02

2013交流支援プログラムレポート03 「クロッシングの渦の中で」


これまでにAAFに参加してきたネットワーク団体のスタッフが、それぞれの地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
AAF2013、今年3番目のレポートは、スタジオ解放区(沖縄県沖縄市)を訪ねた、鞆の津ミュージアムの櫛野展正さん(広島県福山市)によるレポートです。

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<レポート>

南下しているはずなのに、降り立った空港はやけに涼しかった。空港からバスでホテルを経由してコザ銀天大学を目指した。目の前に広がる商店街の多くはシャッターがおりていた。しばらく歩くと、遠目からでもひときわ活気づいている場所が見えてきた。店の外にまで椅子がはみ出し、何人かが談笑している。そこが、目的のコザ銀天大学だった。

スタジオ解放区代表の林僚児さんに挨拶をした後、しばらく待っていると、彼の隣に座っていた若い男の子が「何やってる人なんですか?」と話しかけてくれた。学生服姿の彼は近所の高校三年生で、以前から銀天街で面白そうな活動をしていたので、初めて立ち寄ってみたという。

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林僚児さんに銀天街の成り立ちやコザクロッシングを始めた動機など色々と話を伺っていると、何だか周りがバタバタしてきた。椅子やテーブル、飲料が運ばれ沢山の人たちが銀天大学に集まってきた。さっきの高校生も机を運んで率先して準備をしていた。ホワイトボードに目やると「18:00から千夏の壮行会」と書いてある。どうやら今回訪問のために連絡を取っていた林千夏さんが出産のためしばらく長野に帰ることになり、今日はその壮行会になっていた。気が付くと、さっきの高校生はマイクを握りしめ壮行会の司会進行をしていた。畔柳(くろやなぎ)くんという名前なので、既に「テッちゃん」(もちろん由来は黒柳徹子から)と皆から呼ばれていた。

商店街の住人やレジデンスのアーティスト、特別支援学校の教員、通訳、ラッパー、東京から来たダンサーなど年齢も性別も異なる人たちが集まり始まった宴で、沢山の人たちが激励や感謝の意を述べていた。千夏さんは挨拶の中で、「血のつながりは無いけど、大きな家族」と言ったように、林夫妻が沖縄にやってきて10年かけて培ってきたものを目の前で垣間見ることができた。

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最後に、ある年配の男性が言った。「10年やってきてアートとは何よね?とずっと疑問に感じちょる。分かってるのは、今日この場のみんなの思いは何なんか。アートを超えちょるよね。世の中にはアートを超えるものがある。コザクロッシングを来年は千夏のおる長野のこども病院でやろうぜ」そう叫んでささやかで盛大な壮行会は閉幕した。地域にアートを持ち込むとは何なのか、そう考えながら走り続けてきた僕にとって、この言葉は心に響いた。

 2日目は、スタジオ解放区のスタッフに商店街を案内してもらうことになっていた。しかし、朝になり昨日壮行会で知り合った特別支援学校の教員の男性が、僕がアール・ブリュットの活動をしていることを知ると、アール・ブリュットの展覧会の情報をリサーチしてくれ、一緒に見に行くことになった。車で迎えに来てもらい、高速を飛ばして目的地へと向かった。そこは、「社会就労センターわかたけ」が運営しているカフェ兼ギャラリーで、スタッフの方と話をしていると、良かったら施設も見に行ってくださいと言うことになり、ひょんなことから二人で母体の福祉施設も見学に行くことになった。現地でアート担当スタッフに丁寧に作品や取り組みを説明して頂き、とても大きな収穫を得た。一緒に同行してくれた彼も「こういう成り行きの旅っていいですよね」とにこやかにほほ笑んでいた。

昼過ぎ、スタジオ解放区に辿り着いて女性の方に、活動内容を伺っていると、今度はそこにいた写真家の男性が、「(鞆の津ミュージアムが)そういう趣旨の場所なら、ディープなスポットがあるので案内してあげるよ」と車に乗せていただき、コザの興味深い場所に連れて行ってもらうことになった。とあるアパートの壁面に怪しい女性の手書きイラストが描かれた「けんちゃん書房」という建物は、とても興味深かったが残念ながら作り手の方は不在だった。その後、ちょうどトークイベントを開催したばかりと言うインドの男性のお店で話を伺ったり、リノベーション建築を見学したり、台湾から来たレジデンスのアーティストの話を伺ったりと、そこにいる人の声を聴くことが出来たことは、大変貴重な経験だった。
スタジオ解放区の活動を俯瞰すると、アートを持ち込むという意識ではなく、まず街を大事にするという意識があり、アーティストと呼ばれる人でも誰もアーティストぶっている人はいなかった。みんなコザの魅力にひかれて集まってきている。「ボーダーを超えて交わることの無い人たちがクロッシングする場を作りたい」そう言っていた林僚児さんたちのスタジオ解放区は、その種を確実に街に蒔いていた。結果、高校生のテッちゃんが興味を持ってやってくるなど、多様な仲間たちによる大きなうねりを肌で感じることができた。

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その日の夜、ホテルの部屋で荷造りをしていると、旧盆の最終日と言うことで遠くの方でエイサーの鼓舞が聞こえてきた。「台風の目のような存在でありたい」、林僚児さんの言葉は、奇しくも前日に上陸した台風12号よりも大きな突風となって、いつまでも僕の心に響いていた。

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<開催概要データ>
[企画名]クロッシングの渦の中で
[実施日] 2013 年8月20日(火)~8月22日(木)
[招聘者]スタジオ解放区【沖縄県沖縄市】
[訪問者]櫛野展正(鞆の津ミュージアム【広島県福山市】)

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<タイムテーブル>
◎2013年8月20日(火曜日)
16:00~22:00 林僚児さんによるスタジオ解放区の活動紹介やコザの街の解説、交流会
 会場:コザ銀天大学
◎2013年8月21日(水曜日)
10:30~13:30 アール・ブリュット作品の見学
 会場:ギャラリーさまさま(那覇市首里石嶺町4-373-1)、社会就労センターわかたけ(浦添市前田998-3)
14:00~19:00 コザクロッシング2013 ターミナルライフの視察
 会場:コザ周辺

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<執筆者プロフィール>
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櫛野展正(くしの・のぶまさ)
鞆の津ミュージアムアートディレクター。2012年5月、広島県福山市鞆の浦に築150年の蔵を改修した美術館をオープン。死刑囚の描いた絵画や社会の周縁で表現を続けている人たちに焦点を当て、挑戦的な企画を打ち出し続けている。