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レポート 2013.08.27

2013交流支援プログラムレポート02 「マイクロリサーチ 遊工房アートスペース視察」


これまでにAAFに参加してきたネットワーク団体のスタッフが、それぞれの地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
AAF2013、2番目のレポートは、遊工房アートスペース(東京都杉並区)を訪ねたAIR Onomichiの小野環さん(広島県尾道市)によるレポートです。

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<レポート>

施設見学

住宅地や学校があるエリアの一角に立っているアートスペースは、かつての病院の面影を残した佇まい。まず、代表の村田達彦さんに施設を見せて頂いた。2つのスタジオとレジデンスルーム、ギャラリーがコンパクトな建物の中に凝縮されていた。元病院の建築自体も鉄骨のリベットの作りで建築的観点でも価値があるものだそうだ。震災で傷みが出たが、その後補強し、現在も活用している。ゆったりとした階段周りの空間や機能的な仮設壁の作りが印象的。そして、何より生活空間から一歩出るとすぐスタジオという環境がアーティスト目線でうれしい。
建物の裏には庭もあり、アーティストがこの庭を制作で活用することもあるそうだ。作家滞在中で、居住スペースは見学できなかったが、生活必要備品が整った良好な環境であることが図面からも想像できた。
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各スペースの役割は非常に明確だ。基本的にギャラリーは日本人作家の展示場であり、他の2つのレジデンスルームとスタジオは主に海外作家の滞在・制作スペースで、ギャラリー隣のラウンジには閲覧資料が置かれ、机と椅子を並べれば瞬時に交流の場に変容する。ラウンジ裏にはコンパクトなオフィスが。遊工房では国内作家と海外作家との交流を活発化し、自然に情報交換がなされる場を作り出すことを最重要視しているという。一見自然に見えながらも、場の構造に対する配慮が出会いを誘発し、交流の促進に大きな役割を果たしているのだろう。
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AIR運営とそれを取り巻く環境

館内で共同代表村田弘子・達彦さんにお話を伺う。まず、これまでアーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)を始め、国際交流が活発化してきた経緯をお聞きした。最初は村田弘子さんの彫刻工房として活用していた空間を、友人の作家に貸し出す形でスタート。そこから徐々に人が人を呼ぶ形で交流の輪が広がっていった。何か事業化を狙った立ち上げというよりアーティストコミュニティの自然な拡がりの中でスタートした感じだ。その延長上に現在の姿があるそうだ。お二人の自然体な語り口から非常に緩やかにAIR運営をされている印象を受けたが、ホームページで活動の軌跡を再確認すると、これまでの活動の厚みとAIR事業の取り組みの先進性に改めて驚かされる。
 村田さんは近年、AIRの社会的役割を紹介することにも力を入れている。昨年、レズアルティスや文化庁拠点事業でマイクロAIRという言葉を提唱され、AIRの社会における理解度の向上に努めとうとしているが、一般にその意義を説こうとする時、「アーティスト・イン・レジデンス」と言う横文字の名称にも問題があるとおっしゃっていた。例えば、中国では「芸術家進駐」と翻訳され定着しているが、日本語で何か良い翻訳語はないものだろうか。「滞在制作」と言うことも出来るが、決定的な感じがない。AIRの一般認知度の低さは依然問題であり、美大教員でもどれだけの人がAIRを理解しているだろうか。歴史を振り返ると、過去にも多彩な地域でAIRに類似した活動が存在してきたにも関わらずである。
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具体的連携のはなし

AIR全般についての意見交換の後、今後の具体的連携の話になった。
遊工房は既にいくつかの活動団体と作家の紹介・相互交換等で連携している。こうした連携は尾道とも可能であるし、海外作家が滞在中、国内でリサーチを行う中継地点として安心して紹介できるポイントがあると有り難いという話になった。また、尾道のAIRアーティストが状況に応じて、遊工房で成果発表を行う事もあり得る。
また、遊工房では、これまで「AIR本当の話」として滞在アーティストの現場の生の声を聞く会を開いてきた。これを尾道でのAIR開催中とスカイプで繋ぎ実施する話になった。直近ではスイスのAIRに参加する「もうひとり」(小野、三上のユニット)がジュネーブ滞在中に遊工房滞在アーティストと話ができる機会があり、まずこれを実現することが決まった。そこから今後の相互連携が自然に始まっていくのではないかと言う話となった。
何れにしても小さい主体の連携なので始める事に何のリスクもないので、アイデアが出次第、すぐに実行に移そうということなった。

その他

■海外作家の受け入れだけでなく、日本人作家を外に送り出すことに挑戦していきたい。その第一歩がシンガポールとの交換事業。機会あるごとに、海外のマイクロAIRに作家を紹介し、送り込む話をしているという。
■日本の美大では卒業後の生き方について教育する機会が余りも少ない。AIRにはとても大きな可能性があると思うので、それを大学が伝えていく必要があるのではないか。また、インターンシップのように単位化し、AIR参加を学生に推奨しても良いのではないかという提案があった。形は違うが、神山AIRではインターン学生による効果的な事業の充実を図っている。一方、「社会をかき回す力」がアートの力である考えた時、大学という場に過度に依存・還元することにも問題がある。無理に大学でAIRを実施・推奨するのでなく、違う角度での関わりもあり得る。 
■マイクロAIRネットワーク構築により、ニッチな部分で新たな雇用の可能性がある。例えば、ドキュメンテーションの翻訳・校閲等は各機関必須の仕事であり、共有化することで専門家を雇用することができるはずだ。
 ■建築やまちづくり関係でAIR調査をしている人たちは多いが、アーティスト目線でAIRをどのように捉えているかに非常に興味がある、我々のような団体のリサーチもとても興味深いと言う話となった。
 ■遊工房が10年間アウトリーチ活動として福善寺公園で展開してきた「トロールの森」は地域団体に継承され、2012年に第11回目が開催された。個人のモチベーションに支えられ、継承困難なアートプロジェクトが多いと思うが、遊工房の活動が徐々に人々や地域に浸透してきた証だ。
 ■滞在していたカナダ人アーティスト、レネイ・エガミさんと展示現場で作品に関する意見交換を行った。
 
 視察を終えて

 村田ご夫妻の自然な語り口が終始印象的だった。一方、ラウンジに閲覧資料として整然と並ぶ各国のAIR情報ボックス、マイクロAIRに関する調査をまとめた冊子、これまでの活動記録冊子、作家ごとのA3制作記録など丁寧に編集された媒体が記憶に残る。これまでの活動の継続はもちろん、情報の収集・蓄積とそれを考察し、可視化していく日常的営み。そこに、アーティスト支援に対する村田夫妻の並々ならぬ情熱を感じることができた会となった。
 アーティストの行動や思考は国境には規定されない。しかし、個人が物理的・経済的にその境界を超えることは容易でない場合も多い。その壁に地道に穴を開け、風通しを良くすることが、遊工房が自らに課しているミッションなのだと思った。しかも受け入れだけでなく、双方向の動きにしていくことに挑戦している。こうしたマイクロ間のネットワーク構築は、国内のシーンでの活動に自らを限定し、閉塞感にとらわれがちな日本の若手アーティストにとって、新たな希望を作り出すことにも繋がるのではないかと思った。
今回は初の遊工房訪問であったが、交流の始まりとして非常に意義深いものとなった。スカイプ会議を起点に、具体的に交流がスタートする他、英文校閲などの人材の共有化や、尾道のAIRの特徴(アーティストが運営していることや「サイト」が起点となっていること)を活かした独自のアーカイブの作成等、我々自身の具体的な次なる目標も見いだすことができた。

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<開催概要データ>
[企画名]「表現の場」の「運営」のために
[実施日]2013年7月17日(木)15:30〜18:30
[招聘者]遊工房アートスペース【東京都杉並区】
[訪問者]三上清仁(なかた美術館)、亀井那津子(光明寺會舘)、李豪哲(AIRzine編集室)、小野環(AIR Onomichi)以上4名で視察 【広島県尾道市】

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<タイムテーブル>
◎2013年7月17日(水曜日)
15:00〜18:30 遊工房内施設見学、村田さんの話しを聞く

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<執筆者プロフィール>
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小野環 
美術家。尾道市立大学准教授。AIR Onomichi 実行委員会委員長。2007年より2年に1度尾道旧市街山手地区の空き家や空き地等を活用したアーティストインレジデンスを開催。美術家 三上清仁とユニット「もうひとり」としても活動。