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レポート 2013.07.05

2012交流支援プログラムレポート08 希望をともす"アート"をさがして。

  
その年のAAFに参加する団体、これまでににAAFに参加してきたネットワーク団体のスタッフが、それぞれの地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
2012年は20のプログラムを実施しました。今回ご紹介するのは、岡山、兵庫、大阪、愛知のAAFネットワーク参加団体を訪ねた田仲桂さん(福島県・TSUMUGUプロジェクト実行委員会)によるレポートです。
(2012年11月)

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<レポート>
当プロジェクト(「田んぼの記憶〜ふくしまで、生きる」)では、私たちの地域に降りそそいだ「負」をどう土地の記憶に織り込んでいくか、それをどう希望に変えていくか、「負」から生まれてしまった「境界」をどう超えていくか、そんなことを模索している。今回の交流企画では、プロジェクトの諸先輩方に地域に降りそそぐ問題にどう向き合うか、問題をどう超えていくかを学ぶとともに、地域に希望の灯りをともす"アート"の事例をさがす旅をした。
まずは、それぞれの訪問地での出来事をかいつまんでご報告する。

◎【岡山】(1〜3日目)

田野さんとの時間~池上秦川邸~天神MAM~倉敷散策

1日目、岡山空港に田野さんに迎えに来ていただき、旅が始まった。田んぼの風景を通り抜け、総社市の池上秦川邸へ。車中では岡山の歴史やそこここにある史跡・歴史的建造物、岡山の地域性、田野さんのされている様々な活動、そして現在準備中の天神MAMなど、いろんな話に聴き入る。

田野さんは、廃校跡の校舎(その前は農政局であった建物)で、天神MAMという岡山芸術回廊の展示を手掛けていた。期間は11月3日~12月2日。おじゃました週末は準備の真っ最中。アーティストの木村崇人さん、住中浩史さん、EAT&ART TAROさん、島村敏明さんなどが制作中で、木村さんの稲の作品を少しだけ手伝わせていただくことができた。田野さんには、アーティストの皆さんのフォローやメディア対応でお忙しいなか、私に付き合ってくださった。

田野さんの思い出の地、倉敷にも連れて行っていただいた。ちょうど阿智神社の例大祭が行われていて、白装束に身をつつんだ大勢の氏子さんたちの神輿渡御に遭遇したり、道すがら大原美術館のキュレーター・柳沢さんにお会いすることができた。柳沢さんは2日後から福島に支援に行くのだという。現在福島県立博物館とやりとりしながら支援活動の一環として所蔵作品の展示をするのだそうだ。様々な地域の様々な立場の人が東北と関わりを持ってくださっている。

岡山は災害も少なく穏やかな土地だという。が、それゆえに現われる問題もあるのだという。東北と山陽。それぞれの地域でそれぞれの課題を抱えながらプロジェクトが進んでいる。

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小学校訪問

未来をつくる子どもとその教育現場を見学する、ということで、田野さんの勤務先の小学校へ連れて行っていただいた。子どもたちのパワフルなエネルギーと田野さんはじめ先生方の奮闘ぶりに圧倒されつつ、学校の今を垣間見ることができた。子どもを取り巻く家庭環境、地域性、そして学校。そこに「表現」がどう介在していくか。ともすると複雑でデリケートな問題も横たわっているだけに、一筋縄ではいかない。それでも、表現することが未来への光になることを容易に想像しうる現場を見せていただいた。

偶然にも震災後に福島県いわき市から避難され美術の講師をされている先生とお会いすることができた。発砲スチロールでフタバスズキリュウを作り、いわき訛りが懐かしいと話してくださった。

話がそれるが、岡山を訪問して最も衝撃的だったのが子どもたちの行動だ。福島では放射能対策で落ち葉を拾うことも木の陰に寄ることも芝生に寝転がることも憚られる。岡山のそこここで見られた同様の風景に衝撃を受け、しばらくそこで行なわれている現象が何なのかを理解できず混乱した。放射能が「ない」状況と感覚を、遠いことのように思い出す。同時に、この安息感を求めて福島から他県へ避難することの自然さを想像した。避難する人、残る人。それぞれに様々な苦悩と決断があることを自分のものとして考える。

田野さんの小学校に連れて行っていただいたことは、とても貴重な経験になった。子どもと向き合い教えることの大変さを改めて感じるとともに、未来を作る子どもたちに学校のみならず我々地域の大人が何を見せ、何を感じさせるか、何を残していくか、その責任の重さを感じた。大人の役割は大きい。

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◎【西宮船坂】(5日目)

田んぼの記憶の見立てリレー@ビエンナーレ

西宮船坂ビエンナーレ2012にて、コンテンポラリーダンサーの手塚夏子さんとともに上記企画を開催した。手塚さんは一つの実験として「見立てリレー」を行なっている。

今回のテーマは「ふるさと」。ひとりの人がふるさとに関する記憶を目の前にある何か(のり・はさみ・糸・鍵・キーホルダー・バッグ・袋など何でもOK)に見立て、その記憶について参加者が質問をしていく。それは景色だったりエピソードだったり物体だったりするのだが、質問の答えからその記憶が何かを皆で想像する。そうやってお互いのふるさとを交換していく。ビエンナーレの来場者も参加して行なわれた。

古来より人は天災・厄災を何かに見立てて物語や芸能の型を作り、教訓を残してきた。現在はその意味がわからなくなってしまったものも多い。見立てることの想像力・創造力も薄れている。もう一度見立ての技術を身に付けることで過去の人々のアタマとカラダを取り戻すことはできないか。目の前の過酷な状況を昇華させる術をさぐれないか。そんな実験の一助とすべく企画した。

当企画終了後、岩澤さん、手塚さん、Miracle Waterの阿部和璧さん、船坂ビエンナーレ参加アーティストの西村正徳さんらとプロジェクトの運営や地域との関わり方などについて話をしながら会場をめぐった。様々なアートの祭典が全国各地で開催されているが、それぞれ関わっている場所の特徴などの情報交換をした。

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◎【釜ヶ崎】(6〜7日目)

夜まわり@ココルーム

福島のお米と釜ヶ崎のお米。双方ともシビアな問題が背景に広がっている。今回、釜ヶ崎のお米の意味を深く考えられるようにと、ココルームで行なっている夜まわりに参加させていただいた。

ココルームでは月に1回野宿者におにぎりを配る夜まわりをしているという。毎回歩いたルートやどの場所に人がいたか、配った人数・受け取った人数などを記録し、その推移を把握している。ココルームの夜まわりは外の人に見てもらう意図も含んでいるという。今回おにぎりを作るお米は、沖縄の街歩きライター・一柳亮太さんに「安全なお米だから」と送ってもらった石垣島産のものを使わせてもらった。お米で思いが繋がっていく。
釜ヶ崎から福島へは、原発作業の仕事のため赴いている労働者もいるという。以前、温泉旅館を営むいわき市内の知人が関西からも作業に来ている(泊まっている)のだと話していたことを思い出し、この繋がりが奇妙にも思えた。釜ヶ崎の問題は大きすぎてまだ咀嚼できていない。

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まわしよみ新聞

ココルームにて、大阪七墓巡り復活プロジェクトの陸奥さんが主催している「まわしよみ新聞」WSに参加した。まわしよみ新聞の説明は割愛させていただくとして、今回持ち寄られたのは大阪日日新聞・福島民報・福島民友・スポーツ紙ほか。それを9名でまわしよんだ。

2つの地域の新聞をよむと、大阪の新聞の平和さに幸福感を感じるとともに、福島の状況の異常さを改めて認識する。福島の新聞には放射能関連記事が載らないことはまずない。もっと言うと、毎日のローカルニュースでは天気予報と同じレベルで各地の放射線量が出るし、そこここにはモニタリングポストが立っている。それに慣れてしまった住民は多く、福島のこの状況は異常であるという認識も徐々に薄れていく。だがここで生きていくことを選択した以上、そうせずには生きていけないことも知っている。ともすると記憶から削除していたその異常さを、別の角度から感じる。

参加者の選ぶ記事は十人十色。どの新聞のどの記事に興味を持ったのかを一人一人プレゼンしていくのだが、立場や肩書よりも、なぜそれを選んだのかを通して人柄がわかる。新聞を作っていく過程で場を共有しお互いを共有することができる。それぞれの状況を取り巻く様々な出来事をも共有しやすくなる。

今回のまわしよみ新聞では、当プロジェクトを取り囲む状況を知り考えてもらうことができた。すぅっと境界を超えられる、そんな予感を感じた。小さなきっかけが作れるかもしれないと。境界をすぅっと超えていく術が、今私のいる場所では必要だ。

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◎【愛知】(8日目)

長者町まちなかアート発展計画

翌週の「文化祭」と翌々週の「えびす祭」の準備のお忙しいなか、代表の山田さんが出迎えてくれた。山田さんたちの拠点が入っているビルへ案内してもらう。ビルの3階は、発展計画のメンバーはじめ「大ナゴヤ大学長者町ゼミ」の皆さん、「長者町アートアニュアル」の皆さん、生粋の長者町の方々が集まるプラットフォームになっている。それぞれが、フラっと来て、おしゃべりをして、お互いに手伝い合いながら作業をしている。上映会もできる広いスペースで解放感もある。そのような拠点を持たない当プロジェクトにとっては、居場所と関係性の共有がとても新鮮に映った。

山田さんと私の立ち位置は似ている。プロジェクトを立ち上げて日が浅く、仕事を抱えながらの運営。年齢も近い。えびす祭の準備を手伝いながら、色んな話をした。共有・共感できることが多かった。

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【最後に】

「田んぼの記憶〜ふくしまで、生きる」の拠点である福島県いわき市という地域では、あらゆるものの上に「負」が降りそそいだ。そしてその「負」とそれをとりまく様々なものによって「境界」が生まれた。潜んでいたそれが可視化されたものもあれば、新たな状況の中で生み出されたものもある。いずれにしても、その境界は今も様々な悲しみをも生み出している。

「負」つまり「放射能」とどう向き合っていくか。そして今なお生み出されている「境界」をどう捉え、どう超えていくか。「アート」が希望を見いだす種にならないか。当初は「負」と向き合い模索していくプロジェクトになるはずであった。

が、しかしだ。そうは言いながら、震災から時間がたち、いろんなものが目まぐるしく変わりゆく中で、疲弊していった。「震災」「放射能」に向き合い続けることにとてつもなく疲弊していった。自分の家でとれたお米や野菜を食べないことにも、それによる家族内の軋轢にも、普段は気に留めないようにしていてもふとした瞬間に湧き上がる絶望があることにも、内外からの「放射能」をめぐる声にいちいち反応してしまうことにも、それらを一つ一つ受け止めてどうしていけばいいのかを考えることにも、この上なく疲れ果てた。「アート」の名のもとに「負」と向き合うことを強要するこのプロジェクト自体、削除したくもあった。

そんな折の、交流企画の旅だった。

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自分の暮らしている場所を離れて、いい意味でも悪い意味でも、初めて自分の状態に気付く。俯瞰することもできた。が、自分のいる場所はやはり福島なのだということを再認識させられる。何をしても、何を見ても、それがつきまとう。気付かぬ間に負の思考に毒されていた自分自身に気付く。そして、毒された人間によって進められるプロジェクトであることにも気付く。その意味。そこで生み出されるもの。ふっと、肩の荷が下りた。

報告会でも報告した通り、今年の企画は失敗に終わった。あれは自分たちにとってもそれを受ける他人にとっても暴力だった。その中で、この交流企画では暴力にならないアートに出会えたと思っている。それをアートと呼ぶかどうかは別としても、やさしい"それ"がそこにあった。

「アートで問題は解決しない」とは、先日参加したAAF Caféで出された意見だ。確かにそうだ。アートでは問題は解決しない。震災にあって身をもって感じた。アートでは何の解決にもならない。

だが、私は"アート"に希望を見出したい。アートってよくわからないけど、あまりの傲慢さに速攻削除したい衝動に駆られることもあるけど、そこに希望を見いだせるなら、"それ"とともにありたい。

そんなことを感じた交流企画であった。

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旅を終えたあと、釜ヶ崎のココルームの上田假奈代さんが、素敵な言葉をくださった。

「 いつだって ここでないどこか は いろんな意味を連れてきます ゆっくりゆっくり 」

ゆっくり、ゆっくり、この土地に織り込まれたあらゆるものたちとすごす。私たちの先人たちが、それこそ数千年前から紡いできた土地の記憶のうえに、私たちの今を織り込んでいくのだ。

境界を超える。希望を信じてみる。私たちはここで暮らしている。そして、ここで暮らす者として、境界を超えていけることを願っている。

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<開催概要データ>
[企画名]希望をともす"アート"をさがして。
[実施日]2012 年10月20日(土)~27日(土)
[招聘者]
  田野智子さん(NPO法人ハート・アート・おかやま、岡山県)
  岩澤豊子さんほか皆さん(船坂里山アートを考える会、兵庫県)
  陸奥賢さん(大阪七墓巡り復活プロジェクト実行委員会、大阪府)
  上田假奈代さん、小手川望さんほか、みなさん(NPO法人こえとことばとこころの部屋、大阪府)
  山田訓子さんほか、みなさん(長者町まちなかアート発展計画、愛知県)
[訪問者]
  田仲 桂(TSUMUGUプロジェクト実行委員会、福島県)
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<タイムテーブル>
◎2012年10月20日(土) 
 移動(いわき→岡山)
 16:30-23:00 田野さんと合流〜池上秦川邸〜天神MAM〜交流会
◎2012年10月21日(日)
 10:00-14:00 岡山市内散策〜天神MAM
 15:00-17:00 倉敷市内散策
 18:00-22:00 天神MAM〜交流会
◎2012年10月22日(月)
 07:30-13:30 赤磐市立山陽西小学校訪問
 14:00-19:00 移動(岡山→西宮)
◎2012年10月23日(火)
 終日、事務作業
◎2012年10月24日(水)
 AM 移動(西宮→船坂)・イベント準備
 14:00-16:00 田んぼの記憶の見立てリレー
 16:00-17:00 西宮船坂ビエンナーレ鑑賞
 17:00-19:00 反省会
◎2012年10月25日(木)
 ココルーム訪問
 14:00-16:00 釜ヶ崎散策
 16:00-18:00 夜まわり準備
 18:00-21:00 夜まわり
 21:00-23:00 「まわし読み新聞」参加
◎2012年10月26日(金)
 ココルーム訪問
 16:00-19:00 ココルームWS参加
 19:00-21:00 「ストリートにおけるアートの可能性」参加
 21:00-23:00 「まわしよみ新聞」参加
◎2012年10月27日(土)
 移動(大阪→名古屋)
 11:30-18:00 長者町まちなかアート発展計画
 18:00 移動(名古屋→いわき)

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<執筆者プロフィール>
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田仲 桂 (たなか・けい)
1978年、福島県いわき市生まれ。現在いわき市在住の会社員。TSUMUGUプロジェクト主宰。