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レポート 2013.07.01

2012交流支援プログラムレポート07 "大先輩"を訪問―アーティスト・イン・レジデンスから考える地域に根ざす「場」のあり方


その年のAAFに参加する団体、これまでににAAFに参加してきたネットワーク団体のスタッフが、それぞれの地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。
2012年は20のプログラムを実施。今回ご紹介するのは、徳島県神山町のNPO法人 グリーンバレーを高橋麻衣さん(NPO法人キタミン・ラボ舎=2012年10月当時)によるレポートです。

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<レポート>
徳島県神山町でおこなわれている「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」。今年からアーティスト・イン・レジデンスを始めるキタミン・ラボ舎にとって、今年で14年目を迎えるKAIRはまさに "大先輩"である。

今回、"大先輩"を訪ねるにあたって、キーワードとして考えたいのが「レジデンス=住まう」こと。キタミン・ラボ舎では、2010年からおこなっているプロジェクト「おもしろ不動産」のなかで、アーティストやクリエイターに地域に住んでもらうおうと取り組んでいるが、KAIRは、アーティスト・イン・レジデンスだけでなく、将来地域が必要とする働き手や起業者を逆指名して公募する「ワークインレジデンス」をはじめとした、地域外の人が地域に「レジデンス=住まう」ことを目的とした事業を展開しており、ここ数年で移住者が増えている。KAIRの取り組みから、私たちの活動のヒントを見つけたい。そのような思いを胸に抱き、神山へと向かった。

初日は、台風で徳島行きの飛行機が欠航するというアクシデントに見舞われながらも、KAIRのイベントの一つである「食の交流」に参加した。食の交流が始まるちょっと前に着いたので、会場は準備をする人々で大忙しの様子。調理場には2、30人ほどの人々が慌ただしく出入りしており、その中には自国の料理を披露する今回の招聘アーティストの姿も見えた。

いよいよ食の交流がスタート。NPO法人グリーンバレーの事務局長のニコライさんから、まずはアーティストとそれぞれの料理のご紹介。アーティストだけでなく、地元の方が作った郷土料理や、人材育成塾「神山塾」をきっかけに神山に移り住んだ元塾生も料理を振る舞っており、会場内にあるテーブルには和洋折衷、国際色豊かな料理の数々が並ぶ。

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会場内を見渡してみると、地元のおじいちゃん、おばあちゃんから、小さい子供を連れている若夫婦、20、30代の若者まで、「老若男女」が集まっている。もちろん、アーティストも含め、外国の方の姿もちらほら。参加者のうち3割は元々神山に住んでいた方だが、大半はさまざまなきっかけで神山に移り住んだ方だという。"元よそ者"が多いからなのだろうか。会場内の雰囲気はアットホームだが、私のような"よそ者"もすんなり馴染んでしまうようなオープンさがある。

ここでは、NPO法人グリーンバレーの事業の一つである、人材育成塾の「神山塾」がきっかけで神山に移住した方のうちの何人かとお話しすることができた。ほとんど全員が、神山を知ったのは「生きるように働く人の仕事探し」をキャッチコピーに掲げる「日本仕事百貨(http://shigoto100.com/)」というwebサイトだという。だからなのか、「働くこと」とともに、「生きること」「暮らすこと」も考えていきたいと思う人が多いようだ。しかし、神山塾は移住支援ではなく就業支援事業であり、塾生が神山にいられるのは半年間しかない。それでも卒業生の半数近くが神山に残る年もある。その後の移住へとつながっているのは、塾生のときに半年間近く神山のお宅にホームステイしたことが大きいという。まちの人と日常的に接し、そのなかであたたかさや寛容さに触れたこと。それがここにもっといたいという思いへとつながっているのだろう。

2日目はKAIR(神山アーティスト・イン・レジデンス)実行委員会会長の杉本さんの案内でサテライトオフィスとアーティスト・イン・レジデンスのアトリエを見学する。

まずは株式会社三三のサテライトオフィスを訪問。立派な古民家の母屋の1階と離れが仕事場、母屋の2階が住居スペースとなっている。社員の方によると、通勤時間がないことや、人が少なく(移住している社員の方は現在2名)静かなので集中でき、働きやすい環境だという。困っていることを強いて言うなら、スーパーなどのお店の閉まる時間が早いことと、夜遅くまで開いている飲食店が少ないことだそうだ。しかし、近いうちにバー&ビストロのお店をオープンしたいという移住者がおり、夜に食べるところも少しずつ増えてくるらしい。移住者が増えたことで、まちのあり方もゆるやかに変わり始めている。

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裏庭の畑を見ながら、杉本さんが「今度草を刈りにくるよ。」と一言。「住む」というのは、単にこの地に引っ越してくるのではなく、地域と接点を持ち続けていることなのではないだろうか。杉本さんの何気ない言葉のなかに、神山では日常生活のなかで、まちの人と移住者が自然に接点を持つことができていることを感じた。

次に案内されたのは、元保育園で、現在はアーティストがアトリエとして使っている、「下分アトリエ」へ。行ってみると、ベトナムからのアーティスト、Thu Kim Vuさんが制作中。滞在してから約1ヶ月が経ち、それぞれのアーティストの作品構想が大方決まったところだという。Thuさんは徳島県の伝統品である和紙を用いて、地図の等高線をモチーフとした墨絵をつくる予定だそうだ。日本人作家の出月さんは森のなかに図書館を作るらしい。スウェーデンから参加したUlrika Janssonさんは神山を題材としたストップモーションアニメの作品を制作する。

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外出していた出月さんもアトリエに戻ってきたので、Thuさんと出月さんにKAIRの感想を伺う。お二人は他のアーティスト・イン・レジデンスに招聘された経験があるそうだが、それらと比較すると圧倒的に地域と関わる機会が多いという。「防災訓練がおもしろかった。」とThuさん。つい先日、アトリエのある地区の防災訓練に参加したそうだ。また、お祭りに参加する年もあるらしい。アーティストと顔の見える関係をつくろうとすること。それは、神山において、アーティストは「アーティスト・イン・レジデンス」というアートのシステムの中だけで完結する存在ではなく、その地域に一時的に住まう「住民」であるからなのだろう。

かつて劇場として使われており、現在は作品制作や展示などに活用している「寄居座」を見学し、ビストロ開店を目指して週末だけ神山暮らしをしている方のお宅に立ち寄る。お昼は移住した方がやっているカフェでいただいた。そのあと、これからサテライトオフィスが10社ほど入居するという元縫製工場へ。ここがオープンした暁には、さらに多くの移住者が増えるのだろう。

最後に、神山塾の企画・運営を担う株式会社リレイションの代表取締役であり、NPO法人グリーンバレーの理事も務める祁答院(けどういん)さんにお話を伺う。四国を中心として、コミュニティビジネスや地域マネジメントの会社を起こそうと考えていた祁答院さんは、神山でのアーティスト・イン・レジデンスや森づくりなどの活動を知り、この場所なら自身も実験的にさまざまな事業を立ち上げていくことができるのではないかと考え、棚田再生事業を立ち上げ、神山に関わり始めたそうだ。グリーンバレーの方々が事業についていろいろと口を挟むのではなく、「やってみたらええんちゃう。」と言ったからこそ、ここでやりたいと思ったという。まずは受け止める寛容さ。そして何かできるという可能性を感じさせること。それが人々を惹き付けるのだろう。

今回は、地域外から神山にやって来た人々を中心にお話を伺ったが、神山にやってくる人々は、そこに「郷(さと)」を求めているように思えた。「郷(さと)」とは、日本の田舎と言うべき自然環境だけでなく、迎え入れてくれる懐を持つまちの人のことである。神山には確かに「郷(さと)」があり、だからこそ多くの人が魅了され移住してくるのだろう。しかし、郷(さと)にも「郷(ごう)に入れば郷に従え。」というように、それぞれの地域に脈々と受け継がれて来た風土やしきたりがあり、なんでも受け入れられるというわけではない。だが、移住者と元からの住民が交わることで生まれてくる新たな郷(さと・ごう)もあるのではないか。
アーティスト・イン・レジンデンス、サテライトオフィス、神山塾。KAIRやNPO法人グリーンバレーがおこなう事業が、確かにその交わりを生むきっかけとなっていることを、神山を訪れこの十何年の間に確実に起きているまちの変化を見るなかで感じた。北本はまちの歴史も比較的浅く、またよそから移り住んだ人が多いため、郷(さと)の姿も、従うべき郷(ごう)も創造している段階である。アートは新たな郷をつくるための人々の接点となる。これが、"大先輩"から学んだ、立ち上げたばかりのアーティスト・イン・レジデンスの可能性の一つである。

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<開催概要データ>
[企画名]"大先輩"を訪問―アーティスト・イン・レジデンスから考える地域に根ざす「場」のあり方
[実施日] 2012 年9月17日(月・祝)、18日(火)
[招聘者]NPO法人 グリーンバレー【徳島県神山町】
[訪問者]高橋麻衣(NPO法人キタミン・ラボ舎)【埼玉県北本市】
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<タイムテーブル>
◎2012年9月17日(月・祝)
18:00~20:00:食の交流
会場:神山町農村環境改善センター
KAIR2012のプログラム「食の交流」へ参加。
◎2012年9月18日(火)
10:00~14:00:神山AIR関連施設見学
KAIRのアトリエやアーティストの滞在施設、サテライトオフィスの見学、過去のKAIRで制作された作品鑑賞
会場:神山町一帯(下分アトリエ、寄居座、(株)三三サテライトオフィス、神山町農村環境改善センターほか)

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<執筆者プロフィール>
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高橋麻衣
宮城県生まれ。2011年東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科卒。
東京芸術大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻芸術環境創造修士課程在籍。
アートプロジェクトにおける人の関係に興味を持ち、2010年より2013年3月まで、埼玉県北本市でおこなわれているアートプロジェクト「北本ビタミン」の企画運営に携わる。