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レポート 2013.06.24

2013交流支援プログラムレポート01 「『表現の場』の『運営』のために」


毎年のAAFに参加する団体、これまでにAAFに参加してきたネットワーク団体のスタッフが、それぞれの地で交流する「地域間交流支援プログラム」。活動拠点やその地域の空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。

AAF2013最初のレポートは、NPO法人クリエイティブサポートレッツ(静岡県浜松市)が運営する福祉施設アルス・ノヴァを訪ねたNPO法人こえとことばとこころの部屋(大阪市)、茂木秀之さんによるレポートです。


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<レポート>


地域の構成と社会包摂のリアリティ


浜松に着いてまず町並みに圧倒された。要塞のような駅を出ると人の姿が見えない。道路と車。歩いて移動しようと思うと横断するポイントを探すだけで手間取り、ひどく時間がかかる。この環境では人と人が偶然に関係することが起きづらいだろうし、社会資源の連携も難しいだろうと想像した。


知的障害者、精神障害者を対象とした福祉施設であるアルス・ノヴァも郊外の街道沿いにある。利用者の多くは家族の運転やアルス・ノヴァの送迎サービスによって、車に乗ってやってくる。ドア・ツー・ドアの生活では、地域の中で障害者の姿は「見えない」だろう。この状況下でアルス・ノヴァはどのように地域へ「開く」ことを試みているのだろうか。


着いてすぐ利用者の散歩に同行させてもらった。街道のすぐ裏は路地の入り組んだ住宅地になっている。利用者もスタッフも、庭に水をやるおじいさんや学校帰りの小学生と声をかけあう。

地域の中で姿の見えづらい障害者が思うままに散歩をするということは、まずは地域の中で当たり前に暮らすことの一歩目になるだろう。特異な存在と認識される障害者が、そのままの姿でただの生活者として存在しなおすことができれば、その地域における生活者はより多様になり、地域の包摂性は上がる。

均質へ向かう傾向にある地方都市の郊外で、このような活動が可能なのは福祉施設であるからこそだろう。レッツの活動経緯からは必然であった福祉施設の運営だが、アートがどのように多様性へと開いてゆけるかという問いに対するひとつの実践になっていると言えるのではないだろうか。


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一方でスタッフのみなさんと話しているときにこんなことを聞いた。コンビニのレジでアルス・ノヴァのことが「あそこはいったい何なんだ」と噂されていたというのだ。おそらくこれが地域の多数派の見方である。それはまた、開いてゆく途上にあるアルス・ノヴァよりもコンビニのほうがずっと「市井」として機能しているということかもしれない。

「それならコンビニの店員がアルス・ノヴァのことをよく知ってたらいいよね」

「バイトにアルス・ノヴァ枠をつくってもらって一人送り込もうか」

と話が展開した。これはあながち絵空事でもないと思う。私が東京で関わっていた障害者支援団体は、郊外に位置する事務所の近所にあるコンビニと協力関係を築いていた。コンビニが井戸端のように機能しているならば、それは社会資源である。レッツのアートセンター構想Dot Artsを起草した鈴木一郎太さんは以前、大型ショッピングモールについて「アートセンターとしては、わりと理想的な条件がそろっているのではないか?」と記している(『たけぶん Dot Artsの起草まで』2011年)。道路とコンビニとショッピングモールで街が構成されているならそれらを社会資源と捉えて連携する、というのが郊外のリアリティなのだろう。


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運営の仕方、働き方、生き方


アルス・ノヴァで過ごす中で何より印象的だったのはスタッフのみなさんの働きようだ。福祉施設のスタッフでありながら支援員という固定的な役割を負うことなく、ひとりの人間として利用者と接しているように感じた。

これはアートの文脈からアルス・ノヴァと出会っている方が多いということと関わっているだろう。このこと自体が福祉施設を多様な人材へと開いているのだと言える。また、そうした営利活動とは馴染まないタイプの才能を大勢雇用することができているのは、福祉制度によって雇用条件を保障できるからに他ならない。とかく雇用がないと言われる地方でこれが成されていることは、社会包摂の観点から大きな意義がありそうだ。


ひるがえってココルームをどう考えることができるだろう。カフェを大きな収入源としているものの、財源は単年の助成金に依るところが大きい。常に瀬戸際の経営の中で、仕事量と給与だけを見れば破天荒な労働環境である。

しかしながら毎度の食事を共にし、寄付でいただく物品で生活用品をまかなう。困っているからこそ食べ物をはじめ差し入れを頻繁にいただき、時によくわからないガラクタも持ち込まれるがお返しに一杯のお茶と少しの時間を共にする。街ぐるみで物を共有することで(コレクティブはこの街に根付く文化である)生活には困らず、出会いと無茶苦茶なハプニングというお釣りもやってくる。事務所を持たず、カフェとメディアセンターで訪れる人とすべてを共にするのは消耗することもあるが、そうして物理的にもスタッフと訪れる人とを分けないことで生まれる関わり合いがあり、それ抜きにして街ぐるみの分かち合いはない。


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このように見ると違いの多いレッツとココルームだが、やはり場のあり方はよく似ている。通底するものは何だろうか。ひとつは「絶対的な他者」と日常を共にするということだろう。

障害を持つレッツの利用者、様々な事情から釜ヶ崎でひとり暮らす人々。誤解を恐れず言えば、彼らとレッツやココルームのスタッフは違う。それは社会的不遇の圧倒的な違いであり、社会が分け隔てたものだ。社会的立場がまったく違えば見える世界は違う。まずはわかり合えない。だからこそ対話する。そして人はたいていわかり合えないのだが、そのことを忘れがちである。

絶対的に違う存在と共に生きると腹を決めたとき、人は対話の回路を探る。それは結果として、すべての他者と対話の回路を持ち、共生を実現しようとする姿勢へと開かれていくのではないだろうか。


(写真)

01 11時と15時のラジオ体操

02 アルス・ノヴァ3F児童デイルーム

03 ムラキングさん今日の詩


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<開催概要データ>

[企画名]「表現の場」の「運営」のために
[実施日]2013 521日(火)~ 23日(木) 

[招聘者]NPO法人 クリエイティブサポートレッツ【静岡県浜松市】

http://cslets.net/

[訪問者]茂木秀之(NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム))【大阪府大阪市】


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<タイムテーブル>

2013521日(火)

14:00 アルス・ノヴァに到着

14:30 利用者とスタッフの散歩に参加

16:00 児童デイサービスの場に参加

18:00 振り返り(人マトリックス)に参加

19:00 スタッフのみなさんと食事しながら話し合う

2013522日(水)

 09:00 アルス・ノヴァの活動に一日通して参加

ラジオ体操、バンド練習、クレープづくりなど

スタッフの方ひとりひとりと随時お話しする

17:00 久保田翠さんから福祉制度利用について詳しく伺う

2013523日(木)

523

09:00 引き続きアルス・ノヴァ

14:00 たけし文化センターインフォラウンジへ移動

鈴木一郎太さんから商店街との関わりについて詳しく伺う

15:00 インフォラウンジにて手芸部に参加する


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<執筆者プロフィール>


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茂木秀之

1983年埼玉県生まれ。東京で小劇場演劇、コミュニティサロンの運営、知的障害者支援などに関わる。東日本大震災を機に広島県尾道市の生口島に移住。20129月に大阪に移り、以降ココルームスタッフ。

NPO法人こえとことばとこころの部屋