コラム RSS

コラム 2013.05.20

#23 スズキクリ(ART LAB OVA)


ART LAB OVA(以下オーバ)が「横浜下町パラダイスまつり」をもってAAFに参加して、今年で5年目になる。

わたし自身は、オーバとして横浜下町パラダイスまつり全体のオーガナイズをしながら、アーティストの一人としても参加している。

そこでは基本的に、音楽家としてのアプローチをしていて、演奏のほか、「若葉町スーツケーストラックス」(注:1)、「バンドやるかも」(注:2)、「若葉町うさ耳散歩」(注:3)などというプロジェクトを試みてきている。
「若葉町スーツケーストラックス」と「若葉町うさ耳散歩」は、構成された音の変化を耳で追ってゆく、通常の受動的な音楽の聴き方ではなく、路面とスーツケースの関係や「うさ耳」を通じての、能動的な聴き方の可能性を探る試みだ。
例えば 「うさ耳」の共鳴周波数に焦点を合わせ、奥行きの変化した環境の音から普段聴いていなかった音を発見する。
その感覚は演奏する態度そのものだ。

演奏という行為は、「物や空間に在る、自分にとって価値ある情報」を見つけ出しているにすぎない。
何をどう演奏するかではなく、物や空間がどう響くかであり、そこにおいては表現者の思いなどとるに足らないことに思える。

これは、対象あるいは世界に対してどの様な関係を結ぶかという、知覚の姿勢を現してしている。
表現=自我という権力によって切断されない世界との関係。
そしてそれは、日常的な動作や行為の感覚に重なる。

最近、オーバの拠点「横浜パラダイス会館」の入り口で「ガレージセール」と称してリサイクルショップ的展開をしている。
それは、仲良くしていた近所の韓国人ママが、「アーティストは儲からないだろうから少しでも副業で稼がないと」、と言って自分の持っているブランド品を会館で売ることを提案したことから始まった。
それ以来、韓国人ママの私物と、わたしたちの興味を手がかりに、人を誘い込む「しるし」や「仕掛け」のようなものを日々工夫している。

横浜下町パラダイスまつりをきっかけに、横浜唯一の独立系映画館「シネマ・ジャック&ベティ」のとなりに引っ越したので、今までオーバの拠点を利用していたアート関係者、しょうがいのある人や福祉関係者のほか、映画好きの人が集うであろうことはもちろん想定していたが、現在は、映画監督とお茶を飲んでいるときに「たちんぼ」と呼ばれる中国人のお姉さんが入って来たり、世の中への不満をぶちまけるシニア層のオヤジたち、近所に住むタイ、韓国、中国、日本人のおばさんたち、刺青の入った強面のお兄さんなど、当初自分たちが思いもかけなかったような様々な人々が、この拠点に迷い込んでくるようになった。

しかし、かといって、オーバがスペースを運営する目的は、交流の場をつくりたいわけでもない。
例えば、 商品の選定、間口のあり方、客との距離感、空間、それらの微妙な調節に日々力を注ぐ、それ自体が目的であり、重要なのだ。

1996年、オーバが活動を立ち上げたときから定期的に開催し続けているアトリエでも同様だ。
アトリエ利用者と自分たちを含めた物や人の配置、その場に適正な「間」を整えることが活動の中心になっている。
当初は少なからず、アトリエで出来上がる作品に対してのこだわりもあったが、そこにある多様なことや関係の多くが、作品だけに集約されてしまうことに違和感が募り、少しずつ考え方をシフトしていった。

オーバの活動における、主に社会的マイノリティに対する問題への関与を取ってみても、それらが単に解決された、されないという点で見てしまうと、まるで意味をなさない。
大事なことは、そこでの関係に身を置き、そこで何が起き、何が起きなかったのか、何がどのように繋がるのか、その状況に関わり、自分なりに何らかの調整を続けることだと思っている。
そしてそれは、他者に対して何らかのコミュニケーションの回路を維持しようとする意志の表明でもある。


(注:1)「若葉町スーツケーストラックス」(横浜下町パラダイスまつり2009) 多文化の路地をスーツケースをひいて旅をし、路面とスーツケースのサウンドトラックを聴く試み。4トラックによるフィールドレコーディング。
(注:2)「バンドやるかも」(横浜下町パラダイスまつり2010) その場で出会った者どうしでバンドを結成するための話し合いだけをする試み。基本的にバンドは結成しない。ある種の雰囲気やイメージに還元された音の側面、社会的に記号化された音楽の可能性と限界を扱ったプロジェクト。「一般的な音楽の正しい聴き方の1つは音を聴かないことであるかもしれない」というところから、音楽を『聞く』試みをした。
(注:3)「若葉町うさ耳散歩」(横浜下町パラダイスまつり2012) ウサギの耳を模した共鳴管を頭に装着し、街の音を聴きながら散歩するツアー。 1947年(昭和22年)8月下旬に野毛~伊勢佐木町で行われた市民納涼仮装文化祭(現在横浜の大イベントである国際仮装行列の元になった)の第一回目優勝者ウサギ男へのオマージュでもある。


クリうさ耳ソロ 2.jpg

スズキクリ(音楽家|ART LAB OVA

演奏、作曲活動の他、演劇やビジュアルアート、ダンスなどとのコラボレーション多数。1996年アーティスト・ランの非営利団体「ART LAB OVA(アートラボ・オーバ)」を立ち上げ、多様な表現で場や関係性を考えるプロジェクトを展開。2010年横浜の多文化地域である若葉町に拠点を移し、あいまいな場所として「横浜パラダイス会館」をオープン。左隣にある映画館「シネマ・ジャック&ベティ」とも連携している。http://www.facebook.com/artlabova

写真 福田依子「若葉町うさ耳散歩」