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コラム 2012.10.23

#16 徳永高志(NPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ) 

成り行きで、地域のいくつかの個性的な文化施設にかかわっている。たとえば、内子座。内子座は愛媛県内子町に1916年に設立された廻り舞台と花道を持つ本格的な芝居小屋である。芝居小屋というと歌舞伎を上演していたというイメージがあるが、当初のキャッチフレーズは「娯楽の殿堂」であり、こけら落しは人形浄瑠璃。歌舞伎は平均すれば一年に十数日、あとは軽演劇や舞踊、落語、映画など何でもやっていた。地域の多くの人々の少額出資による株式会社で運営され利益も出してきたが、戦後閉館。町並み保存計画の過程で町所有となり観光施設兼文化施設として1985年に再開場し現在にいたっている。1990年代より町の人々が中心になって、クラシック音楽からカラオケ、大衆演劇まで盛んに興行してきたが、一年に一回の国立文楽劇場引越し公演をのぞけば、近年、その賑わいに陰りが出てきている。

内子座外観.JPG内子座

人形浄瑠璃といえば、淡路人形座とも20年近いお付き合い。淡路人形は、今話題の文楽のルーツであり、500年の伝統を持っている。全国に散らばる三人遣いの人形浄瑠璃の総本山でもある。江戸時代より各地での興行を生業としていたために、全国に淡路人形が伝播したわけである。全国の人形浄瑠璃と同様、1920年代より急速に衰退したが、途切れることなく常設公演をおこない、今年2012年夏、待望の新劇場を南あわじ市福良にオープンした。この劇場は南あわじ市のものでありながら淡路人形座の専用劇場であり、一般への貸出は今のところおこっていない。

淡路人形座写真小.jpg淡路人形座

全く性格を異にするのが、コアアドバイザーをつとめている茅野市民館(長野県)である。詳しくは『茅野市民館ものがたり』(長野日報社、2011年)にゆずるとして、1990年代半ばから、市民が熱心に新市民会館を要求し、計画に参画し、100回を超えるワークショップを経て2005年に開館したこの施設は、現在も事業企画や運営など様々な側面で市民主導が貫かれている。鑑賞事業中心から次第に地域の文化資源発掘や人材育成にシフトしてきているのも特徴である。

茅野市民館俯瞰.JPG茅野市民館

三つの文化施設は一応公立ではあるが、歴史も役割も担い手も全く異なる。一方で、これら個性的な文化施設は、地域社会に大きな影響を与え、文化的基盤ともなっている。ということは、地域の人々が受け取る芸術文化も大きく異なるわけである。とくに、南あわじ市の場合、ほかに本格的なホール機能を持った施設がないため、淡路人形座の専有に関しては様々な声があると聞いている。

文化施設により、ある意味で偏った環境が提供される地域には、たとえばアマチュアのコーラスグループや劇団、ダンスサークルなどがあり、当然のことながら、彼らもまたアートの環境を形成している。ただ、彼らの多くは、どちらかといえば同好の士で、文化施設との関わり方も共益的になる。

こんな状況のなかで、アートNPOの果たす役割は何か?
それは大きく分けて、二つあると思う。

一つ目は、こうした多様な文化施設と連携し、地域の課題をアートにしかできない手法で解決する、ないしは解決の糸口を探る、という点である。文化施設が身軽に動きづらい課題にきめ細やかに対応できるのもアートNPOの特徴だろう。
二つ目は、こうした文化施設の存在とは一見無縁に、アートスペースを運営し、プロジェクトを展開するという点である。この場合、文化施設が提供する場や事業が、フォローしていないジャンルである場合がほとんどであり、結果的に、文化施設の機能を補完し、場合によっては、オルタナティブな位置を占めることになる。

こうした、アートNPOの存在は、どちらの場合においても、ほんらい、芸術文化が持っている最も重要な側面である多様性を担保するという大切な役割を果たすと言えるし、何よりも文化施設が向き合えていないことが多いアートの公益的な活動を担っているのである。AAFは、まさにこうした活動の集合体である。既存の文化施設との距離が様々であるにもかかわらず、いや意識すらしていないのに、地域に必要なアートプロジェクトを的確に見抜いているから、目的・目標を共有できるのだ。

我々カコアはコンテンポラリーアートの振興をこころざし、その社会的効用を説いてきた。また、ともに「アートプラットフォームえひめ」を形成しているNPO法人シアターネットワークえひめは、演劇の振興を目標とし、今年5月には閉園した幼稚園を借りて「シアターNECO」を開場した。これらは、コンテンポラリーアートが認知されていない、使いやすい小劇場がない、という愛媛県・松山市のアートの課題にこたえた活動である。

シアターNECO.jpgシアターNECO

2015年からの地方交付税の大幅な縮減をひかえ、とくに1980~90年代に建設された多数の文化施設に税金が投入されなくなり、危機を迎えることは確実である。これらが廃墟と化すとなると、市民と密接に連携したアートNPOの活動が活発な地域ほど、アート環境が維持されることになる。

アートNPOの活動、ひいてはAAFの活動は、こうした意味で、地域のアート環境を永く保障していくと確信している。

 

徳永写真.JPG徳永高志
1958年、岡山県生まれ。博士(文化政策学)。
松山東雲女子大学人文学部教員、高畠華宵大正ロマン館等を経て茅野市民館コアアドバイザー。NPO法人クオリティアンドコミュニケーションオブアーツ理事長、神戸大学国際文化学部非常勤講師を兼任。各地の文化施設運営にもかかわる。著書に、『芝居小屋の二〇世紀』(1999年、雄山閣)、『劇場と演劇の文化経済学』(2000年、芙蓉書房)、『公共文化施設の歴史と展望』(2010年、晃洋書房)など。