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コラム 2012.09.20

#15 中平千尋(Nプロジェクト実行委員会)

アートが、身近に感じられない。私もそうだが、中学生にとっても「アート」は、遠い存在である。中学生は言う「アートなんてなくても生きていくことができる」と。アートだけでなく、美術館も、アーティストも、物理的にも精神的にも遠いと感じているし、実際そうだ。中学校での美術の必修授業時間数が、3年間で115時間だけになってしまっていることにも原因はある。中学生は人生の中で「自由」とは何かを学ぶ、最も多感な時期であるから、アートが教育的に有効であることに誰も異論はないだろう。その状況を嘆くだけで、アートが天から学校に舞い降りてくるのを待っているのはいやだ。何かアクションしようと私は決意した。中学校に、中学生が作った、中学生好みの美術作品を所狭しと展示し、中学校全体を美術館に変えてしまおう、という取り組み「中学校を美術館にしよう~とがびアート・プロジェクト」である。

2011年3月11日、未曾有の大災害が日本を襲い、原発事故が追い打ちをかけた。長野という被災地から遠く離れた場所で「大変なことが起きた」と感じた。同じ年の夏、横浜トリエンナーレに行った。大きな災害が起こった年に、日本で行われる大きなアートイベントだから、きっと私たち日本人の気持ちに訴えかける作品が有るに違いない、と期待したが、完全に裏切られた。私が共感できる作品は一つもなく、全く楽しめなかった。アートの限界を感じた。きれいだなとか、すごいなと感じる作品はあったが、鑑賞者が共感できないアートが、本当に必要なんだろうか。中学生が「アートなんてなくても生きていくことができる」と感じるのも当然だろう。

「とがび」に参加する中学生は「やってみたいこと」を持って集まって来る。その中には、運動部の中心選手も含まれる。ラジオを媒介にしてインタビューをしていく作品や、ヘアアレンジをして中学生がきれいに変身する作品、ゲームの世界に入ってしまった錯覚をする装置の作品、教室をライブハウスに改造し、シャンソンを歌う作品、などどこがアートなのか理解に苦しむ作品もあるが、やろうとしていることに共感できるものばかりだ。アートから離れていると思われる中学生が、工夫しながら自分たちのやりたいことを一生懸命成し遂げている姿に感動を覚える。

プロジェクトに参加したある中学生はこう言った。「アートは気持ちを伝えるための装置だ。」中学生の姿をAAFから世界へ発信できることに感謝している。私は、これからも、中学生の姿をアートを通して社会へ発信していきたいと思う。

 

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中平 千尋
長野市立櫻ケ岡中学校美術科教諭、Nプロジェクト実行委員会事務局、群馬大学非常勤講師1966年長野県下伊那郡松川町生まれ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業後、東京都内のデザイン会社勤務を経て、長野県内の養護学校や中学校を歴任。
2001年から千曲市立戸倉上山田中学校に勤務。「Nスパイラル」と呼ぶ中学校3年間の題材配列カリキュラムを独自に考案し、必修授業で実践を始める。 
2004年より学校を美術館に変身させる「戸倉上山田びじゅつ中学校(略称:とがびアートプロジェクト)」を始め、全国の注目を集める。 
とがびアートプロジェクトでは、「キッズ学芸員」と称する中学生が、総合的な学習の時間や選択美術の時間を使い、展示企画を考え、作家選択、材料調達、作家との共同制作、展示、作品解説など全て行うことが特徴である。その後、2007年長野市立櫻ヶ岡中学校に転勤、「さくらびアート・プロジェクト」を行う。2007年からは「ながのアートプロジェクト」を立ち上げ、全国の美術教育を盛り上げるため活動中である。