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レポート 2012.08.29

2012交流支援プログラムレポート02「長野静岡多感交流」


AAF参加団体、ネットワーク団体の担当者が交流する「地域間交流支援プログラム」。それぞれの現場やまちの空気にふれながら、たがいの現状をゆっくりと話し合い、アイデアやノウハウの交換を行うことができるように、と始まりました。現在では、新しい視点を獲得することで、あるいは別の視点が持ち込まれるによって、これまでにないプロジェクトが立ち現れようとしています。
今回は、Nプロジェクト実行委員会を訪ねたNPO法人 クリエイティブサポートレッツのレポートです。

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<レポート>

戸倉上山田
戸倉上山田中学校は温泉街のすぐ側にある。戸倉上山田は川沿いの開けた土地の温泉街で、周りは山に囲まれている。韓国人が多く、川魚を看板に掲げている店は見当たらず、焼き肉屋、韓国料理屋、風俗店が多く目についた。夜になると外国人ホステスと中年男性がいちゃついている姿がちらほら見える。夜といっても7時を少し過ぎたくらいの時間である。なんでも外国人連れ込みパブの多さで有名なアングラ温泉街だそう。お祭りの日であった為、通りには家族連れ、中学生、高校生が溢れ、路地裏のメロドラマの前を通り過ぎて行く。
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「とがび」の生徒
中学校では昨年卒業した9人に会った。現在は皆高校に通っている。中平紀子先生の計らいで次に行われる『メガとがび』に向けての話し合いに参加する形で話しを聞くことができた。
自己紹介抜きで始まり、私たちが何者で何をしに来たのかも分からないまま、生徒たちは勢いで自分たちの話したいことを話していく。
温泉街であることも影響しているのだろうか、中平夫妻がいうには、この地域の人たちは人見知りをせず、皆気さくだそうである。事実、生徒たちは人見知りせず気さくに話してくれた。多感であることには変わりはないが、都会の子供とは少し趣きが違う。
生徒は皆元気良く、話しは次から次へと飛び出し、脱線する。その中で「とがびの部屋」と「トミー」と「山P」という名前が出てくる。アーティストの住中浩史さんは「トミー」、山本耕一郎さんは「山P」とあだ名で呼ばれている。生徒たちはアーティストがアートセンターでお茶を出したり、生徒の制作にアドバイスをしたり、制作に関して必要な事を調べてくれたりしたことよりも、服装、髪型、人柄などについて多く語ってくれた。アーティストとの関わりというよりも、先生でもなく親でもなく、近所のおじちゃんでもない大人との出会いを楽しんでいたようだった。
元美術部部長のSTさんは、「とがびの部屋」はみんなの転換期であったと言う。「とがびの部屋」は山本耕一郎さんのアドバイスを基に町の人にインタビューをして、それをテレビ番組調に映像にしたものであるらしい。TKさんとYMさんの激しいやり取りの末に「とがびの部屋」の大きな方向性が決まったそうである。そのやり取りや厳しい制作過程のなかで他の生徒も影響を受け、より完成度の高いものを目指すようになったり、普段は聞けない親たちの本音にとまどったり、他の生徒の手伝いを掛け持ちすることで、自分の居場所を見つけ始めた生徒もいたようだ。
元部長のSTさんは卒業した今も「伝えたいことがある」と、作品作りのために何人かの同級生を集めて相談したり、参加してもらったりしている。卒業生との座談会で感じたのは、卒業してもなおアートプロジェクトに参加したいという意志があること。自分がどんなことをしてきたのか、どんな人と出会ったのか、これから何をしたいのかを自分の言葉で語っている。アートプロジェクトに参加するうえで、自主性と責任感が必要であったことが背景としてうかがえた。
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「要理解生徒」
気さくで発信力があり、嫌みのない統率力をもつ元部長のSTさんは、中学生時代はクラスになじめず保健室通学をしていた。
中平夫妻に聞くと、学校側ではそういった問題があるとされる生徒のことを「要理解生徒」としてリストアップしている。「とがび」を支える美術部員は現在40名ほど。その中で「要理解生徒」はほぼ半数(昨年度)。この言葉から浮かんでくるものは、先生という役割や立場の意識だ。「生徒を擁護する」という姿勢が感じられ、一方で、本人の自発性に目が向けられていたのか疑問が湧いた。しかし、アートプロジェクトに参加する生徒からは、自主性や責任感が感じられた。とがびアートプロジェクトは、中平夫妻が言う「中学生好みの表現の場」を保証するという点で、生徒に対する投げかけであることはもちろんだが、そうした表現やそのプロセスを目の当たりにすることによって、先生方の生徒に対する限定された理解が揺さぶられる可能性もあるのではないかと感じた。

「とがび」とレッツ
中学校と福祉施設とで舞台は異なるが、ながのアートプロジェクトとクリエイティブサポートレッツの活動の間には、共通点が多く見られた。
私たちは、レッツが運営する障害福祉サービス事業所アルスノヴァと入野小学校の関わりを例に挙げ、校長先生が第三者(アルスノヴァ)に抱いてくれた期待についての話をした。学校という場、先生という立場の前では見えない生徒の姿を、アルスノヴァ職員は違った角度で受け取り、学校側も違った姿を知りたがっている。別視点での収集に期待している学校の姿、生徒への別角度からのアプローチが共通してある、と感じた。
その人の在り方をある役割に限定してしまい、その枠から脱しないということは、生徒だけでなく現場の先生にもあるとお聞きした。「要理解生徒」の言葉に代表されるように、ある限定した情報で人を理解することに、どうしてもなりがちである。それに対するアンチテーゼでなくとも、「こんな形だってあるじゃない」という別視点の提案を続けている姿勢が、とがびとレッツには共通してあるように感じた。
中平さんは「きちんとした評価軸を持たない芸術だからこそ、下克上が度々起こる。それまで評価されていなかった生徒が一番になるなんてこともある」とおっしゃっていたが、その評価軸の「ゆらぎ」が故に、美術の授業時間は削られているとも言える。しかし、子どもにとって「自ら選択する機会が極端に少ない(中平さん)」現代社会において、その「ゆらぎ」こそが選択へ一歩踏み出す力を育むのではないだろうか。アートに期待をかけている私達は、そうした価値転換を可能とするアートの力を存分に実践で活かしていかなければならないと感じた。
また、教育や支援にアートを媒介とした活動が関わる場合、「問題」というほど明確でないが問題となってしまいそうな気配のするコトとの向き合い方や対応に、特徴があるように感じられる。その問題の根っこは、一般的に当事者個人に還元されがちだが、見方を変えてみると、実は、当事者を取り巻く社会の受け皿の問題であったり、当事者と社会の関係性の問題であったりする。アートを媒介とした活動は、そういった構造への洞察に基づき、当事者の変化を生むきっかけともなりながら、同時に、周りの人の対応の変化も助長していないだろうか。ながのアートプロジェクトやクリエイティブサポートレッツの活動では、それぞれの自主性に寄り沿ったプロジェクトの進行を大切にしている。こうしたアプローチは、個々の自尊心の獲得・回復や、他者への関心やコミュニケーションへの意欲の発生といった、人の成長に効果的であると考えられる。そこでみられる効果は、教育や障害者支援といった観点からも有益である。
アートの視点や手法が、関わる人の在り方や精神的な部分といった見えないところに影響を与えるということは、そうした効力に期待をかけている活動や、結果的にそのような効果が見られる活動を見ていて感じることである。個々のプロジェクトが対象としている社会課題がなんであれ、人の集合が社会を形作っていると考えた場合、そのような人の見えない部分へのアートの効果をクローズアップしまとめることは大切なことだろう。
AAFに参加している活動でも、人の内面性に対する変化を狙いに含んでいるものや、結果的にそのような効果が見られた事例が多くあるように見えるが、それらは問題や結果の見えにくさや、そこへのアプローチの突発さや不明瞭さなどから、報告会などでもはてなマークが飛ぶことが多いと感じる。それらをまとめてみることで、意図的にそこへ目を向けている活動主たちが蓄えているアプローチの手法や目線などを浮き彫りにし、共有することにつながるのではないだろうかという話を、北信濃名物のおしぼりうどんと共に流し込み、交流を締めくくった。
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山本耕一郎(やまもと・こういちろう)
http://kyworks.net

住中 浩史(すみなか・ひろし)
http://www.suminaka.net

中平千尋(なかだいら・ちひろ)  中学校美術教師。長野県出身。美大デザイン科で学んだ後、東京のデザイン会社勤務を経て、長野県の中学校の美術教師になる。2001年に戸倉上山田中学校に赴任。その翌年、「暗闇美術館」を実施し、2004年に「とがびプロジェクト」をスタート。2007年に櫻ヶ岡中学校に赴任。

中平紀子(なかだいら・のりこ)  中学校美術教師。長野県出身。美大で造形について学び、卒業後、長野県の中学校の美術教師に。2007年に戸倉上山田中学校に赴任し、「とがびプロジェクト」を運営する。

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<開催概要データ>
[企画名]「長野静岡多感交流」
[実施日]2012年7月14日(土)〜7月15日(日)
[訪問者]鈴木一郎太、尾張美途、佐藤啓太、田中保帆(NPO法人 クリエイティブサポートレッツ)【静岡県浜松市】
[招聘者]中平千尋、中平紀子(Nプロジェクト実行委員会)【長野県千曲市】

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<タイムテーブル>
◎2012年7月14日(土)
13:30- 中学校到着
13:30-16:00 中平紀子先生、昨年の卒業生、第1回目の卒業生と話す
19:30- 中平千尋先生が合流し、中平夫妻と食事しながら話す
◎2012年7月15日(日)
周辺を見て回りながら、昨日の振り返りをする

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<執筆者>
鈴木一郎太(NPO法人クリエイティブサポートレッツ 事務局)
尾張美途(同法人 障害福祉サービス事業所アルスノヴァ)
佐藤啓太(同法人 障害福祉サービス事業所アルスノヴァ)
田中保帆(同法人 障害福祉サービス事業所アルスノヴァ)
編集:石幡愛(同法人 事務局)