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メッセージ 2012.02.02

#08 田野 智子(NPO法人ハート・アート・おかやま)

冬の澄み切った青空、全校朝会に並んでいる児童の頭上を飛行機が朝陽を浴びて横切る。私は、かつての職場であった小学校で講師をしている。学校にアーティストを派遣し、子どもとワークショップをしていくプロジェクトが、きっかけで。

「なんで勉強するん?」「自分らしくすることと、集団行動とどちらが大事なん?」と、子どもたちは問うてくる。

 私は、30代で退職した後、障害のある人の施設で表現活動に関わって来た。養護学校時代には絵筆も触ったことがなかった人と、絵を描いた。それまで眠っていたエネルギーを画面いっぱいに炸裂させる人たちと、ありったけの絵の具を使い、画面が足りなければ継ぎ足しもした。その作品をコンペに出すと、アーティストに交じって大賞も獲得した。障害は表現においてはハンディではなく、社会的規範の閉塞を揺るがす力を持っている。uniqueとはマイナスではないというイメージ。アートに関わることで、「unique I(ユニークアイ)」も良いのだという自信を彼らの家族や、周辺の人たちが感じ取った。これを一施設内の出来ごとで終わらせたくない。商店街や銀行跡で、教会や学校で、川原や島で障害の有無に関わらず参加できるワークショップをした。フォーラムや展覧会を行い、実行委員会を母体にNPOを興した。岡山市内中心部の学校跡地で企業・行政と連携して現代美術展を開催したことで、直島の地中美術館開館にも関わった。

気づくと「創造性と他者との関係性」を問いとしている自分がいた。表現においては、障害や年齢はひとつの個性となり、彼らの自己表現から豊かな市民文化の創造が拡がる。障害ゆえに想像性の芽をもつ人、自由な発想をする子ども、自身のキャリアを生かし人生の終焉を生きている活力のある高齢者は、まさに概念をもっている人であり、その人の存在そのものがサイトスペシフィックである。

 「ファインアートと障害者アートを行き来しているんですね」と声をかけられたこともあった。自分では、既存のカテゴリーを飛び越えて、双方向のフラットな関係を紡ぎたかった。徹底的なローカルの追及こそが、普遍性に通じる。地中美術館のモネの部屋の建設現場で新しいプロジェクトを始める勇気をもらった様な気がしている。
障害のある人と、アーティストが1対1のペアになり、長期継続的な関わりから生まれる新しい概念をかたちにしていく「アートリンク・プロジェクト」を始めた。その記録集をもって、2006年の秋、AAFと出会った。

 AAFでは、各地域から関係性の哲学をアートの視点で可視化させるプロジェクトが集っていた。人間性に基づくアートがあった。興味あるアーティストやプロジェクトの企画者とパズルの隣のパーツを繋げていくかのように自然発生的に、参加団体相互の交流が発生した。訪れた隠岐では、瀬戸内の島とのかつての海の道の存在が見えた。温泉も廃校もシャッター通りの商店街も、お爺さんお婆さんだらけの島も、AAFでは、本当にかけがえのない場所になる。関わるごとに、手触りのあるネットワークが自主的に形成されてきた。アートは、個性の領域を広げていくこと。新しい価値を創造すること。でもアートだから、既存の概念を壊しては、また創造していく。その繰り返しをやむにやまれず行っている人たちの集合体。動的平衡を繰り返す、生命のささやきにも似て。

 子どもには、こう答える。
「人は自由になる為に勉強するの」「自分を探す旅では、新しい他者との出会いがある」

 変化し続けられる、柔軟性を持っていようと思っています。
でも、島のお爺さんに比べれば、まだほんの旅の途中。

 

 

 

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田野 智子(たの ともこ)
NPO法人ハート・アート・おかやま代表理事

 

 愛媛県松山市生まれ。小学校教諭を経て、岡山県吉備の里能力開発センターのシステム開発にかかわる。表現を通して個々の可能性と社会との接点を見出そうと、1999年NPOの前身の団体を起こし現在に至る。2004年度よりアートリンク・プロジェクトを展開し、2007年からはフロリダ州セントピーターズバーグのNPOと国際交流事業を行なっている。一方で少子高齢化の進む瀬戸内笠岡諸島での、高齢者との表現を通じた共同研究「カルチャーリンク」を継続。岡山県内の学校にアーティストを派遣しワークショップを実施すること、芸術教育の現状調査を行うなど、表現・食・文化という日常をテーマにし、障害の有無や年齢や分野を超えた人々の密接な交流から生まれる新しい価値を地域ごとの特色ある伝承文化との比較を視野に入れ展開している。

2012年度は、明治初期に咸宜園で学び、帰郷し地域教育に携わった池上秦川の研究、岡山市内の廃校での文化祭を計画中。編著として「アートリンク・プロジェクト」など。讀賣プルデンシャル福祉文化賞奨励賞、日本美術教育学会奨励賞など受賞。川崎医療福祉大学非常勤講師。