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レポート 2010.02.25

交流支援プログラムレポート9 「天若湖AP×ひょうたんからKO-MA×ENVISI 三角交流」


各地域間の自発的な交流を促すために、AAF2006より実施している「地域間交流プログラム」。AAF2009の交流支援プログラムレポート第9弾は、「天若湖アートプロジェクト」(京都)、「遺言 近江八幡映像プロジェクト2009」(滋賀県)、「LIFECAFE」(宮城県)の3者による交流企画をお送りします。

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2009・11/1(日)
10:00~
宮城県大崎市にある穂波の郷クリニックをENVISI齋藤高晴氏と訪れ、クリニックの院長である三浦正悦先生とソーシャルワーカーの大石春美氏にお会いした。お2人が取り組んでいらっしゃる在宅緩和ケアについてお話を伺うとともに、こちらからは天若APの活動や、2006年から続けている遺影写真プロジェクトといった自身の制作活動について紹介をさせていただいた。その後、三浦先生と大石氏の在宅診療の現場を見学させていただけるということで、齋藤氏と共に患者さんのお宅へと向かった。
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11:00~
佐々木すみ子さん
筋肉がどんどん動かなくなっていくALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病のすみ子さん。現在歩行や会話をすることが困難であり、声帯の筋肉が衰えてしまっているので意思伝達方法は筆談による。看護をする家族はすみ子さんとコミュニケーションを取りたいと考えていて、筋力の低下がすすみ、彼女が文字を書けなくなった時のコミュニケーション方法について心配しているものの、すみ子さん自身はどんどん動かなくなる身体に対する絶望感やいら立ち、家族に対する申し訳ないという気持ちから世界を閉じていってしまっているのではないかと感じた。元気で明るいお孫さんの存在や、優しく話を聞いてくれる大石さんや三浦先生の訪問が家族間の風通しを良くし、様々な問題について改めて前向きに考える場をつくっている様子が非常に印象的だった。
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12:30~
ともいさん
ともいさんは歯茎のガンを患っている。ベッドに横たわるともいさんにあいさつをすると、優しい笑顔を見せてくれた。三浦先生が治療をしている間、大石さんが今度ともいさんが寝てらっしゃるまさにこの部屋で仲良しの近所の方々を集めて何かイベントをやりましょうと提案された。在宅ケアをするにあたって、その人が持っていたコミュニティを復活させることが必要であると大石さんは仰った。医療の力で痛みを取り除くことは可能だが、それだけでは患者さんの問題を全て解決したことにはならない。病気によって影響をうけた家族や友人たちとのつながりや本人の夢や想いをも「治療」しようするクリニックのアプローチは本当に新鮮な驚きであった。

13:40~
荒木君子さん
胃がんを患っている君子さん。8人兄弟の長女である君子さんは、とてもしっかりとした受け答えで迎えて下さり、病気になって家族に迷惑をかけていることを気にかけていらっしゃった。三浦先生が「君子さんはこれまでみんなの面倒を十分みてきた。もっと甘えていいんですよ」と仰った時の君子さんの表情を見て胸が詰まる思いがした。また、今日のように日曜日に訪問すると、近くから家族が集まってきているので、患者さんの持つコミュニティを把握するのに良いとのこと。ご家族をはじめ周囲の人々とも非常に積極的にコミュニケーションをとり、そこからまた本人とのより深いコミュニケーションへと繋げていく大石氏の手法はご高齢の方のメッセージを映画として映し出そうとする「遺言」プロジェクトにも非常に示唆するところが大きいと感じた。

14:30~
穂波の郷クリニックに通われている方々がパレットおおさきで開かれている定期演奏会に出演しているというので伺う。マンドリンの音が響くホールは立ち見が出る盛況ぶりで、御高齢の演者の方々のとても生き生きとした表情がライトに照らし出されていた。

17:00~内海照子さん
全身にガンが転移。内海さんの周りにはとても明るい家族や友人達がいた。それまでの交友関係が彼女がガンになった後も変わらず続いていて、友人の方が「暗くなっちゃだめよ、あなたはそうやってすぐ無口になっちゃうのだから。一人の世界に閉じこもってはだめ」と仰っていた。周囲の家族や友人が彼女に対して変わらないスタンスで関わっている様子を見て、内海さん自身がとてもリラックスしてらっしゃるようだった。内海さん宅の前にて解散。

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これまで私の中でガンという病気は何か得体の知れない恐怖の塊のようなもので、がんを発症すると自分の生活、人生のすべてがその塊に呑みこまれ、塗りつぶされてしまうのだろうと漠然と考えていた。しかし今回在宅ケアの現場を実際に訪れて感じたことは、たとえ重度のがんであってもあくまでその病気は患者さん本人と、家族や友人などの周りの人々との関係の中で存在するものであるということだ。そこには関わっている人ひとりひとりがそれまで生きてきた時間、ともに過ごしてきた時間が脈々と流れていた。病気はその流れを断ち切るものであってはならないと感じるとともに、その流れが断ち切られてしまいそうな時に適切にサポートをするという穂波の郷クリニックの活動・アプローチは単なる医療行為を超えた人間のあり方の根本に働きかける活動であり、天若湖AP、遺言をはじめとしたアートプロジェクトにも示唆するところが非常に大きいと感じた。
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◎天若AP←→LifeCafe
天若APで行われている、湖の底に沈んだ村の灯りを湖面に浮かべ、以前そこにあった方々の記憶や民謡を発掘し伝えていく活動を通じ、コミュニティ規模の時間軸で在宅ケアを考えていくことの必要性も示唆することができたのではないか。
また灯りがつなぐ記憶がどのように発展しているか、移転者の方々の現在や、下流域の方々がどのように問題を受け入れて行くかに焦点を当てることも今後の活動の中で視野に入れて考えたい。

◎LifeCafe→近江八幡遺言プロジェクト
在宅医療の現場で行われている患者さん以外の周囲の方々を巻き込んだコミュニケーションによって見えてくるものがあると感じた。自身が参加する近江八幡遺言プロジェクトでも対象者だけでなく、彼らの持つコミュニティにも焦点を当てていくことで今回学んだことを生かしていきたい。

◎今後
最初に訪れた佐々木すみ子さんの意思伝達用インターフェースの開発を斎藤氏と共同で行うことになり、個人の制作にも今回の交流プロジェクトが与えて下さった影響は多大である。また新たな発展を期待したい。

<タイムスケジュール>
11/01(土)
09:30 宮城県大崎市大崎市古川の穂波の郷クリニックに集合・顔合わせ
クリニック内にてお互いの活動について紹介
11:00 三浦先生、大石氏の訪問診療に同行し、佐々木すみ子さん宅を訪れる
12:30 ともいさん宅の訪問診療に同行
13:40 荒木君子さん宅の訪問診療に同行
14:40 クリニックの患者さんや関わりのある方々が出演しているマンドリンの定期演奏会に同行
17:00 仙台市泉区に移動 内海照子さんの訪問診療に同行

11/02(日)
16:00 佐々木すみ子さんを中塚、齋藤のみで再び訪問
すみ子さんの意思伝達装置をつくるために自分たちができることについて話しあう。


<執筆者プロフィール>
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中塚ともこ
京都造形芸術大学大学院芸術研究科修士2回生。2008年より天若湖アートプロジェクトに参加。2009年より近江八幡遺言プロジェクトに参加。
自身の研究テーマ:日本の遺影用写真について。