コラム各地からの「もの」便り
vol.1
『三津の渡船』
四国のアートネットワークを四国遍路になぞらえて展開する「四国アート88ヶ所&CO.」。その出発点となる松山の湊町・三津浜には、渡船があります。三津と対岸の港山を結ぶわずか80メートル間の内港の渡し舟です。
現在、松山市営により、年中無休、無料、朝7時から夜7時まで運行しています。この渡しは、食べ物を得るために利用されはじめ、太平洋戦争下では利用が統制され、三津が松山市に合併されたことにより市営となるという変遷があります。いろいろなことに巻き込まれながらも今も生活のなかに残り、また実に風情も感じられるものになっていることが分かります。500年も前から続いている渡し舟は地域と確実に関わっているのです。
普段は、地域の人が利用する便利な「もの」ですが、アートが関わることによりその機能が変化します。これまでに、地域の記憶に焦点をあて、地域と人を繋ぐプロジェクトがこの渡しに関連して行われてきました。三津の渡しはアートとコミュニケーションというふたつのコンセプトを結びつける大切な「もの」です。ここで今何が行われようとするのか、また逆に今まで何が行われてきか、この渡船に乗ることによってそれらの光景を流れの如く見た思いがしました。
そして今、より良くまたより多くの”作業”を行うためには、まずその仕組みを知ることが不可欠です。お仕事のさなかに、船頭さんからこの船の舵取りの方法を少しだけお伺いすることができました。竹竿や櫓漕ぎ時代を経て、エンジンによる操作になり、渡し舟も進化を遂げてきています。
しかし、やはりそれを創り、コツを生み出し今に伝えることができるのは人です。たくさんの地域が密接に存在している世界の中では、それぞれに歴史があります。培ってきたもの、壊してきたもの、その両方が混在したなかで、人は生きることができているのではないでしょうか。
この渡船が、移り変わる日常の本来の意味を探す旅への、ナビゲーターの役割を果たしている、私はそういう気がしています。
- 戒田美由紀
- 1978年生まれ。yummiydance(ヤミーダンス)のメンバーとして創作活動を行い、一方で、特定非営利活動法人 クオリティ アンド コミュニケーション オブ アーツ(通称カコア)のメンバーとして現在、松山を中心に、アートに関わる様々な企画・制作・運営に携わる。